「菊とペン」(50)-(菊地 順一=デイリースポーツ)

◎不適切こそ面白い?
2024年のプロ野球が開幕した。
12球団の監督さんたちはまず143試合戦うが、なにが誤算と言って開幕から当てにしていた戦力が離脱することだろう。それも主砲やエースだったら目も当てられない。
ロッテを担当した16年だった。監督は伊東勤である。前年は3位。Ⅴ奪回へと韓国球界からヤマイコ・ナバーロを獲得した。ドミニカ出身で15年に48本塁打、137打点をマークした大砲である。
オープン戦では2試合連発で〝さすが〟となった。だが2月21日、那覇空港で逮捕される。実弾を1発所持しており、銃刀法違反容疑で逮捕されたのだ。
翌日から大騒ぎとなった。ドミニカでは銃を所持することは珍しくなく、ナバーロも持っていた。来日の際、自宅にあった実弾がバッグに入っていたのに気づかなかったという。
それにしても不思議だ。成田空港でなぜスルーとなったのか。千葉から沖縄へも移動している。厳しいチェックがあるはずだ。
このため「沖縄のヤクザから入手したのではないか」とか「日本にいる同国人のヤバい筋から手に入れた」など未確認情報が飛んだ。
もっともナバーロはすっかりしょげ返っていた。開幕から4週間の出場停止である。復帰しても元気がなかった。
そんなナバーロが初本塁打を放った。さあ、原稿である。私は仮見出しを「ナバーロ、弾丸ライナーで1発」とし送稿した。
数分後、社の若いデスクから電話が入った。「これちょっとまずくないですか?シャレになりませんよ」
思えばこの頃からこの手のことにはうるさくなったのか。私は「ナバーロが号砲」「ナバーロ不発」「ナバーロ弾」とかいろいろ考えていたのだが、日の目を見なかった。
遊軍として三局(コミッショナー事務局、セ・パ事務局)を担当したことがある。93、4年頃だったろうか。プロ野球参入を狙う数々の企業名がウワサされた。
当時、消費者金融としてブリブリ言わせていた武富士もその1つだった。あくまでもウワサだが気になる。
そこでコミッショナーの某偉いさんに可能性を聞いた。「ありえない」とキッパリ否定するとこう続けた。「どうせ、君たちは…仮に武富士が球団を持って参入し、下位に沈んだらどう書くか。手に取るように分かる」
「武富士、借金雪だるま」「武富士、黒星返済不能」「Ⅴ絶望、破産間近」
勝てば勝ったで「武富士、白星取り立て情け容赦なし」「さあ、黒星返済シリーズだ」
どうせスポーツ新聞にはこんな見出しが躍る。プロ野球界にとってはマイナスイメージしかない。こう言うのである。
なるほどとなって、そして徐々に言葉の使い方にはうるさくなり、いまに至る。
たまには不適切な表現もいいではないか。現役を引退してこう思うのだが、許してくれない世の中になってきた。
スポーツ紙には頑張って時にはドキッとし大笑いする見出し・原稿を見たい。まあ、開幕とともにマジメに考えたのだった。
ちなみにナバーロは帰国後の18年、銃器不法所持で逮捕されている。製造番号が消された銃を持っていたのである。
全くもって懲りないヤツだった。(了)