◎オープニングピッチャー(菅谷 齊=共同通信)
プロ野球が2024年も始まった。野球の本格的シーズンの到来である。
野球はかなり前から歳時記に例えられている。「春はセンバツから」と。高校野球の3月に甲子園球場で行われる選抜大会を、そう言った。語呂が実にいい。
その終盤にプロ野球がスタートを切る。
甲子園球場を本拠地とする阪神は、この時期、本拠地を明け渡すから開幕戦はビジターとなる。「泣く子と高校生にはかなわない」のである。選手権大会の夏も明け渡す。苦戦すると「死のロード」と冷やかされる。といって高校野球を恨むわけにはいかない。春も夏も泣く子と高校生には勝てないのだ。
プロ野球開幕でもっともワクワクするのは開幕投手はだれ(名前)か、である。カタカナでオープニングピッチャーと言うと、ワクワク感がもっと高まる。
このオープニングピッチャーは“投手の名誉”といっていい。子供のころからエースとして君臨してきたプロ野球の投手は、プレーボール直後の第1球を投げることに誇りを感じ、エースとしての存在、くだけて言えばお山の大将を実感するのである。
プロ野球の歴代オープニングピッチャーを見ると、最多回数は金田正一と鈴木啓示の14度。いずれも左腕である。“黄金の左腕”こと金田は国鉄(現ヤクルト)時代に10度、巨人に移籍して4度。巨人では三塁長嶋、一塁王をバックに投げる夢を果たした。
続いて阪急の山田久志の12度、5年連続勝利という実績が光る。ロッテの村田兆治13度、西武の東尾修12度とビッグネームが続く。
現在はキャンプのときから「開幕投手は?」とメディアは追いかける。オープン戦に入ると終盤には投手名は明確になる。監督が発表することも少なくない。
思うのはこれでワクワク感が起きるか、ということである。プロ野球黄金時代は開幕戦のメンバー発表のときに初めて分かる。場内アナウンスのときはスタンドの観客は静かに聞き、名前が出るとワッと湧く。受験の合格発表のようだった。
大リーグを真似て予告先発方式を取り入れている今、式次第を淡々と行っている感じである。エースの連投というハプニングによる大歓声はもうないだろう。昭和はほんとうに遠くになりにけり。(了)