「大リーグ見聞録」(74)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎「投げる哲学者」と「ちゃらんぽらん助っ人」
▽口数少なく、もの静か
「外国人選手はあんまり真面目なのより、ちょっとちゃらんぽらんの方がいいよ」
 横浜球場で横浜(現DeNA)対巨人戦の試合前、ベンチで巨人の打撃練習を見ていた須藤豊監督(1990年から92年)がこうつぶやくのを聞いたことがある。視線の先にいたのはウオーレン・クロマティだった。同じようなセリフはヤクルト時代の野村監督(1990年から98年)からも聞いたことがある。
 クロマティといえば巨人で7年間プレー。通算打率3割2分1厘、171本塁打、558打点。1989年には首位打者にも輝くなど、チームをリーグ優勝、日本一に導く働きをした。打席での集中力はさすがだったが、守備ではしばしばボーンヘッドを犯す。地方球場で試合前、王監督の話を畳に寝転がって聞くなど、いい加減のところがあった。
 突然、こんな昔話をしたのは今季、DeNAから大リーグのシカゴ・カブスに入団した今永昇太が気になっているからだ。駒大4年の時、春季リーグ開幕前の激励会で今永を取材した。当時、駒大のエースに話を聞こうと探したが、なかなか見つからなかった。今永は会場の隅でチームメイトと話をしていた。グラウンド外で会話を交わすのは初めてだったが、物静かで口数も少なく、とても大学球界を代表する投手には思えなかった。小柄(174センチ)なこともあるが、目立たず、オーラも感じられなかった。
▽ロッカーでドラムの練習
DeNAに2015年のドラフト1位指名で入団。活躍するにつれ、ナインから「投げる哲学者」と呼ばれるようになった。試合中でも投球フォームをチェック。腕の位置を確認する。毎年のようにマウンドのプレートを踏む足の位置を変える。何事も自分が納得するまでとことん追求する姿から、そんなニックネームがつけられたのだろう。
MLBで活躍するには環境に適応する能力も必要だ。日米のボールの違い、初めて経験するピッチクロック、2桁が当たり前の連戦、時差のある長距離移動、言葉の問題…今永には球場の内外で未知の世界が待っている。思い通りにいかないこともあるはずだ。そんなときどう対処するのか。
前回も登場した旧知のMLBスカウトに今永の評価を聞いてみた。彼は今永の前回のWBCでの活躍を認めた上でこう返信してきた。
「投手として上背がなく(178センチ)、フォームがスリークオーター。投球に角度がなく、打者は打ちやすい。しかも完全主義者と聞いているので、思うようなピッチングができないとき、ストレスがたまらないか心配だ」
ちなみにクロマティのストレス解消法はドラム。どこに行くにも、バッグにドラムのスティックを入れ、試合前のロッカーで、ヘッドホンで聞く音楽に合わせて、椅子や机を叩き、時には壁も叩いていたという。(了)