「野球とともにスポーツの内と外」(59)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎金には代えられないもの
 MLBの2024年シーズン開幕戦となった「ドジャース対パドレス」の韓国シリーズ2連戦(3月20、21日=高尺スカイドーム)は、MLB公式戦の韓国初開催ということもあって凄い盛り上がりを見せました。ドジャースに移籍した大谷翔平投手(29)の初陣、新加入した山本由伸投手(25)の第2戦先発、パドレス・ダルビッシュ有投手(39)と大谷の初対決…。MLBのアジア戦略を視野に入れたこの夢競演に入場チケットも一気に“プラチナ”化、激しい争奪戦となりました。
 入手困難を嘆く日本人ファンに向けて旅行代理店大手のJTBが2種類の観戦券付きパッケージ・ツアーを発売しています。①1試合観戦(2泊3日)ものが49万8000円②2試合観戦(3泊4日)もので72万8000円。パッケージには、観戦チケットのほか足代、宿泊代、他に選手と同じフィールドで試合前の練習を見学するなどの特典も含まれましたが、普通の韓国旅行を考えれば、やはり「高額」だろう、このパッケージ料金。それでも購入希望者の抽選による争奪戦は、約200倍もの激しさだったとのことでした。
▽シ烈なチケット争奪戦
 「興行」は辞書に「見物人を集め、入場料を取って演劇、映画、相撲やボクシングなどを催すもの」(広辞苑)とあります。大枚を支払う見物人(観客)がそこに求めるものは、最低限「払ったお金に見合うもの」であり、それが得られなければブーイングとなるでしょう。
 さて…このほどプロボクシングの4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(30=大橋)が5月6日に東京ドームで防衛戦を行うことが決まりました。その入場料金が発表され、最も高い席が「22万円(リングサイド特別席)」と設定されました。東京ドームでのプロボクシング興行は過去、1988年(昭63)3月と2年後の1990年(平2)2月の2度、当時全盛の3団体統一世界ヘビー級王者マイク・タイソン(米国)がタイトルマッチを行っています。そのとき以来、34年ぶりとなる東京ドーム決戦。ちなみにタイソンの試合、初来日時の料金設定は、最高額が「10万円(リングサイド特別席)」で再来日時は、同「16万円(同)」でした。
▽金では換算できない非日常性
 当時のこと。10万円の設定などは破格の金額で「買う人がいるのか?」などと注目されましたが、担当記者たちは、チケット販売の途中経過にまた驚かされます。実にこの10万円席から売れ始めたというのですね。16万円のときも同様でした。ちなみに初来日時のタイソンは、挑戦者のトニー・タッブス(米国)に圧巻の2回KO勝利。再来日時は挑戦者のジェームス“バスター”ダグラス(米国)に“世紀の大番狂わせ”となったまさかの初黒星、10回KO負けを喫しました。2試合ともこの出来事をリングサイドで観た人たちは、10万円も16万円も「安かった」と思ったことでしょう。
 韓国での開幕戦をJTBのパッケージ・ツアーで観戦したファンが、テレビのインタビューで感想を聞かれ「ツアー料金は確かに高かった。でも来てよかった。お金には代えられない最高の思い出が得られましたからね」と話していました。
何の変哲もない日常に埋没している人々を非日常の世界に引き込んでくれるのがスポーツの持つ力というものでしょう。してもらいたいと思うことをしてくれる大谷や井上のスーパースターたち。金銭などでは到底はかれない彼らが起こす“奇跡”にファンたちは、惜しみなくお金をはたくのでしょう。(了)