「いつか来た記者道」(21)-(露久保孝一=産経)

◎縁起のいい年男の一投一打に注目

 「今年は年男なので縁起がいいぞ」「年女だから是非、がんばりたいわ」              
 毎年、年の初めにはそんな言葉が交わされる。2020(令和2)年は、十二支の干支でいえば、年男・年女は子年生まれの人に当る。年男は縁起がいい、といわれるのは、神様のご加護をほかの十二支より多く受けられるからである、という昔からの言い伝えが基となっている。プロ野球でも、そんなご利益(りやく)があり得るか、と球史を追ってみると、なるほど、と思われるケースが結構見られるのである。今回は、子年と野球界を考えてみたい。

巨人倒しMVP、シリーズ王子になった岸孝之

 その年男開花が見事に実現したのは、西武時代の岸孝之投手である。年男となった2008年、プロ2年目のジンクスもなんのその12勝4敗と2年連続の2ケタ勝利をあげた。巨人との日本シリーズでは第4戦に投げ毎回奪三振の完封勝利、第6戦ではリリーフ登板して5回2/3 を無失点に抑えてMVPに輝いた。「シリーズ王子」とも報道され、一躍全国区の人気者になった。
 岸よりひと回り、12歳年上の稲葉篤紀外野手も年男の本領を発揮した。ヤクルト入団2年目の1996年、打率3割1分の好成績をあげ外野のレギュラーの座をつかんだ。2008年の年男イヤーでも打率3割1厘をマークした。
 その一方、屈辱の年男を体験したのは雄平であった。ヤクルトに投手としてドラフト1位で入団。2003年の5勝から5年間は毎年、2―4勝の白星をあげてきた。しかし、年男となった2008年は、プロに入って初めての0勝という苦しみを味わった。翌年も未勝利で、2008年は打者転向を考える「悩める年」の始まりになったようだ。高校時代から、打者としてのセンスは優れたパワーとテクニックをもっており、プロで打者一本に切り替えても成績を残せる才能はあった。
 子年ではないが、2019年の亥(いのしし)年では、その年男たちが「猛威」を振るった。西武の中村剛也が打点王、森友哉が首位打者とMVP、ソフトバンクの高橋礼が新人王、オリックス・山岡泰輔が最高勝率、楽天・松井裕樹が最多セーブとタイトルホルダーがずらり並んだ。令和元年は年男の躍動の舞台でもあった。

▽稲葉篤紀は東京五輪で年男金メダル獲得へ

 2020年は、1984年と96年生まれの子年・年男たちがどんなチャレンジをするか。巨人の主砲に成長した岡本和真、正捕手をめざす岸田行倫、豪快なスイングのヤクルト・中山翔太、好打者のDeNA・伊藤裕季也らがセ・リーグにいて、パではプロ2年目の日本代表投手のソフトバック・甲斐野央、2ケタ勝利をめざすオリックスの増井浩俊、外国人ではソフトバンク新加入のバレンティンもいる。
 さらに注目されるのは、前述したように、過去の開花の再現を待つ岸や稲葉たちである。岸はプロで2度目の年男となる2020年を楽天で迎える。2008年シリーズで、高ーくあがった胴上げをしてもらった夢よもう一度といくかどうか。稲葉は夏の東京五輪において正式競技に復帰した野球で、「侍ジャパン」の代表監督として臨む。2019年11月の「プレミア12」で優勝し、次なる目標を五輪金メダル獲得一本へ絞って突き進んだ。また、雄平は外野手として打率3割、定位置確保に挑む。
 それぞれの年男の戦いは、どんな「実りの季節」を迎えるのであろうか。(続)