第10回 イチローのテーマ(島田健=日本経済)

◎シアトル市民の感謝を代表

▽打席登場曲のような軽快さ

「ゴー ゴー ゴー ゴー イチロー」で始まる繰り返し部分は「三塁を蹴ってホームだ  知っているよね 強肩だって何度もみせる (名物アナウンサーの)デイブはラジオで イチロー 君は驚くほど素晴らしいと叫ぶ」と続く。
 シアトル・マリナーズのセーフコ球場で何度も流されたに違いない、もしかして打席への登場曲かもしれない、と思わせる軽快な曲だが、実は2012年(平成24年)7月23日、イチローのヤンキースへのトレードが発表された日に、ネット上で公開された惜別、感謝の唄だった。

▽根っからのマリナーズファン

作者のベン・ギバード(76年生まれ)はシアトルのロックバンド、デス・キャブ・フォー・キューティーのボーカル兼ギタリスト。5歳からずっとマリナーズファンといい、「これを書いたのは数年前だけれど、みんなに聞いてもらうには今日がベストだと思った。サンキュー、イチロー」とコメントした。
 野球中継放送の殿堂ともいえるフォード・C・フリック賞を受賞したデイブ・ニーハウスは10年に亡くなったから、その時より前にできていたと思われる。

▽イチローから目を離すな

「どんな瞬間でも 彼は完璧に君の心を揺さぶる だから君はイチローから目を離してはいけない 彼は打球をいともかんたんに止めるし 二塁を奪ったとしても喜ばない 相手が警戒を怠ると三塁も陥れる イチローよこれこそみんなが君を愛する理由なんだ」
 一時はシアトルスポーツ界で唯一明るい話題を提供していたともいわれたイチロー。シアトル出身の米国人に、東京でイチローを自慢されたことがあるが、市民にこよなく愛されていたことがよく分かる。チームが変わってもシアトルのファンは敵打席のイチローへ暖かい視線を送ったそうだ。

▽自筆歌詞が殿堂コレクション入り

米大リーグ野球の殿堂の公式サイトを見ると、コレクションの中に、イチローのグラブ、バット、ユニフォームなどに混じって、ギバードの自筆による草稿(一部)が収められていた。
 それを見ると、ほとんどは完成版と一緒だが、「北西沿岸地方に波に乗ってやってきた」という部分で草稿には波に「青い」という形容詞がついていた。イチローの日本での球団はオリックス・ブルーウエーブ。そんなことも考慮しながら詞を書いていたのかと想像してみるのも面白い。
 検索するときは”Ichiro’s theme”で。(了)