「大リーグ ヨコから目線」(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

ダフ屋アレコレ 続

前回、ロサンゼルスでドジャース戦のチケットをくれようとした若者をダフ屋と勘違いした話をした。そのダフ屋に、私が一度、アメリカでなったことがある。2005年、デトロイト・タイガースの本拠地コメリコ・パークでオールスターが開催されたときだと記憶している。友人ら数人と観戦に行った。日本で入場券の手配を頼み、当日、現地で受け取ったのだが、ロスとは逆で友人2人が急用でデトロイトに来られなくなってしまったのだ。
 球宴の入場券はアメリカでもプラチナチケット。発売、即、売り切れ。席によっては10倍、20倍の値段がつくことも珍しくない。席は内野席で値段は100ドルくらいだったと思う。日本でなら野球好きの友人、知人に連絡しあげることもできるが、デトロイトではどうしようもない。どうしようかなと周囲を見渡すと、球場の回りにはダフ屋が出ている。「チケットが欲しい」「チケットが必要」と書いた段ボールを掲げているファンもいた
 日本でも同じだが、アメリカでもダフ屋はやはりそれらしい臭いというか、雰囲気を感じさせる。以前、ニューヨークの旧ヤンキースタジアムにヤンキース戦を観戦に行った際、ダフ屋で入場券を買ったことがあった。そのとき、そう感じたからである。実際、ダフ屋がスタジアムに向かうファンにしきりと声をかけている。「チケットあるよ。余った入場券があれば買うよ」と言っているようようだ。

ダフ屋のセリフに驚いた

チケットをムダにするのももったいない。欲しがっているファンに実費で譲ることも考えたが、ダフ屋に高く売れば旅費の足しにもなる。そんなスケベ根性も手伝って、思い切ってダフ屋に声をかけた。ダフ屋にダフ行為
をしようというのだから、我ながらあきれるが、その男は私を一瞥すると人目の少ないところに連れていった。そしてその吐いたセリフにひっくり返りそうになった。
 「ダフ屋行為は法律で禁止されている。知っているのか!」
 「お前が言うか!」と喉まで声が出かかった。どうやら「法律違反」をチラつかせて、タダで入場券を巻き上げる魂胆のようだ。それならこちらもやり返さなくてはいけない。
 「そうか。法律に違反するのか。知らなかった。それなら売らない。止めた」
 私はそう言ってその場を去ろうとした。すると勝手が違ったのか、ダフ屋は慌て出した。
 「待て!待て!」と私を引き止めると、「いくらなら売るんだ」と聞いてきた。立場逆転だ。しばし交渉して商談成立。いくらで売ったかは記憶があいまいだが、倍くらいだったのではないかと思う。
 そのときは「知らなかった」とは答えたが、実はダフ屋行為がアメリカでも法律違反なのはわかっていた。時効だと思うので白状するが、ごめんなさい。(了)