「野球とともにスポーツの内と外」(62)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎「連鎖」の不思議
 ガツン! その一撃は乾いた音を発し、白球は夕日に染まる茜色の空を切り裂きました。目指す“憧れの人”に届けとばかりに…。6月11日(日本時間同12日)にMLBドラフトリーグで「トレントン・サンダー」チームの一員として米国デビュー(米メリーランド州フレデリック)を果たした佐々木麟太郎内野手(19)が“名刺代わり”に放った「米国1号」アーチです。
 【MLBドラフトリーグ】=2021年に創設され、現在は6チームで構成される若手の登竜門。MLBが支援しMLBドラフトの対象となるアマチュア選手が主に参加している。
 2005年(平17)4月18日生まれ。岩手県北上市出身。岩手・花巻東高時代に高校通算140本塁打を放った超高校級スラッガー。佐々木は注目された高卒後の進路を米国の「スタンフォード大」進学に決め、今は今年(2024年)秋の入学を待つ日々です。
▽佐々木と大谷の同日本塁打
 佐々木が存在感を示す衝撃的な一撃を放ったその日の夜、米メリーランド州フレデリックから約3700キロ離れた米カリフォルニア州ロサンゼルスのドジャースタジアムでMLBドジャースの大谷翔平投手(29)が5試合ぶりに16号本塁打を放ちました。花巻東高の後輩・佐々木の思いを受け止めたかのように…。
 こうした出来事に接するとき、2人の快挙に拍手を贈りつつ、しかし、出来過ぎの“同日アーチ”については「たまたまだろ」「偶然だろ」と片付けてしまいがちです。が、その一方で「連鎖の不思議」~目に見えないつながり~そういうものがあるのではないか、とも考えてしまいます。佐々木が中学時代に所属していた「金ヶ崎リトルシニア」では大谷の父親である徹氏が監督を務めていました。進学した佐々木の父親が監督を務める花巻東では先輩と後輩の間柄。大谷と佐々木をつなぐ見えない鎖-。
▽あくびの連鎖は共感による
 例えば電車の中で通路を挟んで向かい側に座った人があくびをしたとき、別に眠くもないこちらがつられてあくびをしてしまうことはよくありますね。あくびの連鎖反応です。こういうことがなぜ起きるのか? 資料をひもとくと、あくびの連鎖について、その分野の専門家は「あくびをしたその人に関心があるため」と言い「だから関心のある人と同じ行動が誘発される」と分析していました。似たような言葉に「以心伝心」があります。
【以心伝心】=「思うことが言葉によらず互いの心から心へとつながること」(広辞苑)
 つまり「以心伝心」は、人間関係にあって親子や夫婦、あるいは親友、切磋琢磨する先輩と後輩など、深い理解や共感が存在する間柄の中で起きるのですね。こうしてみると佐々木と大谷が放った同日のアーチは、あながち「偶然」とは言い切れないものがあります。佐々木が発した快音に“大谷先輩に届け”の思いが込められていたなら、それが大谷の心に連鎖することはあり得ることですね。人と人との間にはAIなどでは及びもつかない不思議が存在するのですから…。(了)