一線級プロの“絶好調”とは…(佐藤彰雄=スポーツニッポン )

▽絶好調大谷の「見極め」

右ひじの手術から復帰したMLBエンゼルスの“二刀流”大谷翔平(投手=24)の活躍はファンを楽しませています。
 その大谷が6月、月間32安打、9本塁打、22打点とメジャー2年目で自己最多の数字を記録したとき、自身“絶好調”と言い切る大谷を報じる新聞記事は「(投手の)左右に関係なくいい見え方をしている」という彼の言葉を伝えました。つまり「一番大事で一番できない」ストライクゾーンの「見極め」ができている、と言うのです。

▽プロボクシングの「見切る」

「見極め」という言葉を聞いて私は、プロボクシングの世界にも好調時の表現として「見切る」という言葉があることを思い出しました。
 簡単に言えば、相手のパンチが見える、ということなのですが、例えば序盤戦の主導権の奪い合いにあって、相手の届かない距離、自分が届く距離、を好調なときはいち早くつかみ、それをもとに自分優位の状態に持っていくことができます。
 今、最強と言われるWBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)が5月18日、英グラスゴーで行われた「WBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)」のバンタム級トーナメント準決勝でIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回TKOに下した試合は、まさにそれでした。
 滑り出しの初回、相手の距離の長さに戸惑った井上は、2回に早くも修正、相手の距離を見切って自分の距離を詰め、アッという間に片づけてしまいました。
 「相手を見切る」、そして大谷が言う「ストライクゾーンの見極めができる」。面白いものですね。プロ野球、プロボクシングとジャンルこそ違え、一線級プロの好調時はこうなるという共通項を感じます。

▽青木功が見る「V字型の樋状」

プロゴルフでは「ゾーンに入る」と言いますね。この言葉は近年、各スポーツ分野で普通に使われるようになっていますが、私の記憶ではプロゴルフの試合で最初に使われたような気がします。
 メンタルゲームのゴルフは、高度の技術を持ったプロが集中力を高めると、にわかには信じられないようなプレーが飛び出します。「ゾーンに入った選手は手がつけられない」と言われ、では具体的にどんな状態になるかというと、例えば“パットの名手”青木功の場合-。
 「パットのラインが見えるのは普通に好調なとき。絶好調のときはラインが“V字型の樋(とい)状”になっている」
 そうなるんだそうですよ。まったくスゲーとしか言いようがありません。そして…それを経験した選手たちは、常にそこが目標となるのですね。
 大谷にはもっともっと、この絶好調状態を維持して観(み)る側を熱狂させてもらいたいものだと思います。(了)