「いつか来た記者道」(19)-(露久保孝一=産経)

◎卑猥なチーム名を使わないで

 ライオン軍の「10割打者」高田勝生について、前回書いた。今回のストーリーも、それに関連したものなので、その続きとして読んでいただきたい。
 ライオン軍は1937年(昭和12)にできた戦前のチームだった。翌年、高田監督が37歳で就任した。第2次世界大戦が始まり敵国の英語は使えなくなって、ライオン軍は41年に朝日軍に変わる。ライオン軍は消滅したが、高田監督は別のチームで甦った。 
 戦争中の44年、戦時企業統合政策(陸上交通事業調整法)の施行により、南海鉄道は関西急行鉄道と合併して近畿日本鉄道となった。球団名は「近畿日本軍」となり、高田が監督に就いた。
 戦争が終わり、46年、プロ野球は8球団によって再開され「リーグ」に復帰する。近畿日本軍は、球団名をグレートリングに改めた。近畿グレートリングとも呼ばれた。ペナントレースはこの近畿日本軍が制覇した。2位は巨人だった。
 ところが、この優勝チームに珍騒動が持ち上がった。

▽面白いチーム名だと笑い声

 チーム名が問題になったのだ。
 グレートリングは、鉄道事業にグレート(大きな)リング(輪)を築くという意味をもっていた。しかし、グレートリングは、英語スラングで人間の陰部を意味する。「面白いチーム名だ」と、進駐軍関係者からの声が球団に届いた。 
 そのため、球団内では名称変更を考え始めたという。翌年、南海鉄道は近畿日本鉄道から分離し、独自に南海電気鉄道として再出発した。渡りに船? 南海は、グレートリングの名を捨て、新たに南海ホークスとした。
 ホークスでは、アメリカ兵は冷やかせなくなった。

▽「近畿」は英語で性的な意味も

 もうひとつ、似たような話がある。
 「近畿」も英語で性的な意味をもつ。「kinki 性的異常、変態」としている辞書もある。
 外国人からは下品な意味にとられるため、近畿を球団名に入れるのはその後止めにした、という話もあるが、断定できる証拠は残っていない。
 会社の「近畿日本鉄道」は、私鉄の雄としてその後成長し名前をそのまま使用している。
 2008年2月の産経新聞によると、近畿大学でも「kinki」の英語表記の変更を検討していたという。
 大学の教員が海外で「kinki university」の名で研究発表した時、笑われたり、驚かれたりされたことがあったため、大学名に「kinki」を入れない案を考え始めたとのこと。現在、近畿大学の英語はKindai Universityである。
 芸能界とはかけ離れたプロ野球には、少年のファンも多く、性的な意味を込めた球団名やキャッチフレーズなどは拒否する、という空気は変わらないようである。(続)

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