第34回 ムーブメントとロケイション(島田 健=日本経済)

◎精密機械の身上
▽先端のブルーグラス
英国の伝統音楽をベースに米国で発展した器楽中心の音楽がブルーグラス。パンチブラザースはマンドリンを中心にフィドル(バイオリン)、バンジョー、ギター、ベースの5人組。2006年(平成18年)に結成されたバンドだが、この業界では実験的な試みも多く先端的とも言われている。
この曲はリーダーであるマンドリンのクリス・シーリが長年シカゴ・カブスのファンであることから、精密機械といわれたグレッグ・マダックス(カブス、ブレーブスなど)を称えた12年発表の唄である。
▽変化とコントロール
題名は日本野球で言えば、変化球とコントロールになるだろう。
若い時でも時速93マイル(150㌔)、晩年には86マイル(138㌔)を下回ったマダックスの身上はまさに針の穴を通す制球と動くボール(ツーシーム)、サークルチェンジ、カットボールなど微妙に変化する球で、ゴロを撃たせること。通算の与四球率(9イニング)は1・80、97年は0・77という凄さだった。  
奪三振より、いかに少ない球数で勝つかが目標で、100球未満で13回の完封を達成している。
▽歌詞は難解
細かいリズムを刻んだ後、マンドリンが続きようやく始まるボーカル。「彼はあの23年間、変化球とコントロールだけを目標に生きていたのだろうか」。
マダックスの実動は23年。この歌詞だけでマダックスのことだと分かるが、この後の文言が難解だ。ネットでの解説でも比喩が多くわかりにくいとされている。
▽最上を追求すること
意訳になるが、「最上のものを求めるには、スポーツでも人生でも、自己を見つめなおさなくてはならない。しかも批判的に見なくてはならない。最上のものを求めるモチベーションは本質的なスリルの追求である。
変化球とコントロールをある程度のレベルで追求することは必要なことだが、それが自分の手に届かないことを思い知らされたり、努力が無駄になることもある」。
マダックスは通算355勝。14年の1回目の投票で野球殿堂入りを果たした。余談だが、クリス・シーリの身内自慢は4代前の伯父が殿堂入りを果たしたサム・トンプソン(1860年生まれ)だそう。
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