「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤 彰雄=スポーツニツポン)

◎“変則”への賛歌
 1977年に米女子ゴルフのメジャー競技「全米女子プロ選手権」を日本の樋口久子(現JLPGA顧問)が制したとき、米国人選手のロッカーは、蹴ったり叩いたり、デコボコになったと言われています。自分たちの土俵で外国人選手に勝たれた悔しさ。その時代、まだまだ沽券(こけん)に関わる出来事だったのでしょう。
 が、その一方、米国人“らしさ”は、アジアから単身乗り込んできた選手の勇気を称え、何よりも樋口の創意工夫、非力をカバーして飛距離を伸ばすための、上体を左右にスライドさせる変則的な「スエー打法」(実際はスエーはしていないのですが…)に喝采を送ります。米国人はそうしたチャレンジで夢を追う人々の姿が好きなのですね。
▽「エイオキ」から「アオキ」へ
 1980年の米男子ゴルフのメジャー競技「全米オープン」で4日間、帝王ジャック・ニクラウスと優勝を争った青木功は、死闘の末に敗れた2位を日本人は悔しがりましたが、米国人は“さすが”と受け止めました。
完全アウエーの中で勝ってしまうより、帝王に花を持たせたほうが…と思ったかどうかは分かりませんが、米国人は青木にあるいは“武士の情”的な感情を抱いたのかもしれません。それ以上にやはり、ここでも青木の前かがみでヘッドのトゥ部分を上げて打つパットの変則打法を“オリエンタルマジック”として拍手を送っています。
ちなみにこの試合を境に「エイオキ」と呼ばれていた青木の名前が正しく「アオキ」変わりました。負けて勝ち取った価値(勝ち?)-。
▽野茂が魅せた迫力投法
 さて…プロ野球界の変則といえば、野茂英雄元投手の「トルネード投法」に尽きるでしょう。MLBのドジャース時代とレッドソックス時代にそれぞれ1度ずつ、計2度のノーヒットノーランを達成するなど活躍したことは周知のことです。
 「トルネード投法」は、体を反らすほどに大きく振りかぶり、そこから打者に対して背中を向けるほどに体を捻り、反発力を利用して投げる投げ方です。 
 野茂は少年時代、父親から「腕だけで速い球は投げられない」とアドバイスされ、体全体を使うにはどうしたら…と試行錯誤、創意工夫でこの「トルネード投法」をものにしています。
近鉄時代からこの投法で奪三振記録などを達成し「ドクターK」の異名も頂戴していましたが、やはり野茂の本領発揮は、奪三振王として「トルネード投法」の価値を高めたMLBを拠点としてからでしょうね。
昨今のスポーツ各界でなぜか“変則”が減っています。それは、パワー不足をカバーするための変則は、一つには体への負担がきつすぎるからとも言われます。その分、創意工夫も個性も「没」の時代。おりこうさん揃いではつまらないですね。(了)