「セ・リーグDH採用で球界が変わる?」-(山田 收=報知)

第18回 導入反対論の声を傾聴する
 過去2回にわたって、セもDH制を導入すべし、と綴ってきた。私自身が賛成派であり、若手評論家、現場の声も紹介してきた。実は私的なことだが、拙稿を読んだ長年のプロ野球ファンの友人から意見をされた(有難いことです)。 
 「セの反対論の源流を紹介していたが、何十年も同じ考えから脱せないと見るのは果たしてどうなのか。確か、ノムさんは生前、DH制に大反対だった。堀内恒夫、岡田彰布らの意見は分かったが、大御所の反対論も紹介してほしい」
 とのこと。
 川上哲治氏と並ぶ9人野球の信奉者・野村克也氏の反対理由を書き出してみる。多くの雑誌や著書に散見できるが、主な論点は以下の通り。
① そもそもDH制はルールブックに記されている大前提を破っている。公認野球規則1.01には「野球は(中略)監督が指揮する9人のプレーヤーから成る二つのチームの間で(中略)行われる競技である」とある通り、野球は9人でチームを構成して戦うスポーツだからだ。
② DH制では采配の妙、すなわち監督の手腕を発揮する場が少なくなってしまう。投手交代か、続投か、戦況に応じた采配の機微は、9人制にこそ見られるもの。
③ 野球の魅力はファンが監督になったつもりで観戦することだろう。それを失わせてしまう。
④ セとパが違うから面白い。せっかく2つのリーグがあるのだから、“セ・リーグらしさ”“パ・リーグらしさ”があっていい。
⑤ 投手の打撃能力も評価されるべき。
 選手としては晩年、32試合だけDHで出場、セ・パ両リーグで監督を務めたノムさんだが、「DH制は邪道」と言い切るほどだった。
屁理屈を言うなら①については、スタメンは10人でも、攻撃する時は9人だし、守る時も9人であることには違いないと思うのだが…。②はこれまでも見てきたように、反対論の王道。とくに監督経験者から多く発せられる発言だ。 
④はまさにその通りなのだが、今回のセ・リーグDH制提案の根本にあるのは、その違いがパ高セ低の要因の一つでは、と考えられていることだ。もう少し両リーグの実力差が解消されれば、と思う。
高い戦略性、緻密な采配、能力の高い代打、打撃も魅力のある投手と言ったセ・リーグ野球の強みを体現できるチームがそろえば、堂々と「セは9人野球でパを倒す」と宣言できるのだが、残念ながら、現状ではその領域には達していないチームばかりだ。
 結局、9人野球でパに勝つには、選手強化しかないのでは、というのが私の結論。それはドラフトであり、育成であり、外国人を軸とした補強など、編成面の努力なしでは、とても成し遂げられない。もちろん、最も重要なのはファンが喜び、受け入れられる制度なりルールをつくることだろう。(続)