「いつか来た記者道」(43)―(露久保 孝一=産経)

◎嫌われる勇気をもって道をひらく「読書」
 プロ野球の熱い戦いが終り、シーズンオフなると、野球選手の過ごし方はさまざまである。秋季キャンプで猛練習し、翌年の春季キャンプでの飛躍を期する若者にとっては、一日足りとも野球上達のための努力を怠ることはできない。そのための体力作りと技術向上は重要な要素であるが、頭脳を啓発して野球にプラスをもたらそうとする選手たちは少なくない。先人の成功例や心構え、思考などを学んで、自分を磨こうとする「考える野球」である。その有効なツールは、読書である。
 2021年のペナントレースでリーグ最下位に沈んだ横浜DeNAベイスターズは、球団創立10周年に当たり、開業100周年の横浜市立図書館とタイアップして、ベイスターズ選手数名がおすすめの本を紹介するコーナーを設けた。11月16日から20日間、市内の区立図書館で開催された。
 その中で、今永昇太投手は『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)、大貫晋一投手は『嫌われる勇気』自己啓発の源流「アドラー」の教え(岸見一郎/古賀史健著)、佐野恵太外野手は『道をひらく』(松下幸之助著)を選んだ。
▽DeNA選手が人生に役立つ著書をおすすめ
 17年に11勝、19年13勝している今永は、『君たちはどう生きるか』について「80年も前に書かれた本ですが、人生で大切な本質はいつの時代も変わらないものだと感じました。中学生の主人公コペル君が、人との触れ合いで成長する物語でもあり中学生、高校生におすすめしたい一冊です」とメッセージを寄せた。
 父を亡くして叔父に育てられたコペル君は、ニュートンがりんごの落下を見て万有引力の法則を思いついたという話を聞いて、自分の頭で考える大切さを学ぶ。学校、友達、社会の中で思い悩んで精神的に成長していく過程を描いたこの名著は、1928年発行以来読み続けられている。野球という一種独得の世界で、どう人生を生きるか。今永自身、著書からヒントを得て次への飛躍へ新たな決意をした。
 2020年に10勝している大貫投手が選んだ『嫌われる勇気』は、著名なアドラーの心理学を説いた自己研鑽の本である。哲学的な本ではあるが、「人間の悩みはすべて対人関係である」とアドラーが言うように内容はわかりやすい。いろんな社会で、「周囲の人に嫌われたくない」と考えて、相手の言いなりになったり、自分の意見をひっこめたり消極的なる人は多い。そこから、他人との劣等感や自己嫌悪に陥る。自分は不幸だと嘆く。そんな負い目から脱却して新しい自己に生まれ変わろうと助言するのがこの本である。例えば、いつ本気を出すかという場合、決断を先延ばしせずに「今、ここ」の行動をとり、選択に迷ったら、最も後悔しそうなものを選んで挑む。何もしないよりは、後悔するような選択肢を選んで、覚悟を決めて全力でぶつかることが大事だと説明する。
▽読書から飛躍、最下位から脱出への道も
 大貫投手は「勇気ある行動」に感銘を受けた。「さまざまな哲学的な問いに具体的な”答え”を示していて、今までの自分になかった考え方がたくさんあり、衝撃をうけました」  
 彼は、野球に関する技能、知識を他力本願ではなく自主的に向上していこうという意識を強く持ったに違いない。自分が追求する野球を、「上司」や「他選手」に嫌われても、自己が信じる「人生の勇気」をもって突き進むかもしれない。
 経営の神様と言われた松下幸之助の『道をひらく』をすすめた佐野外野手は、自分を律し、プロとしての自覚を持つことと他人を思いやることの大切さを再認識した。「僕自身のモチベーションがものすごくあがりました」と強調、2度目の首位打者へ挑む。
 読書を通じ、一段高いレベルの野球をして勝利に結びつけようとするDeNAの選手たちは、22年のペナントレースで注目されそう。最下位から優勝へ、という例は1960年のチーム前身の大洋ホエールズを含め過去何度もある。ひょっとして、次はDeNAの番かも?(続)