◎高額契約の余波と余震ー(菅谷 齊=共同通信)

 2023年のオフ、またプロ野球のトップ選手が大リーグに走った。驚くのは契約金の高額さである。
 ・吉田正尚(オリックス)→レッドソックス 5年9000万㌦(124億円)
 ・千賀滉大(ソフトバンク)→メッツ 5年7500万㌦(102億円)
 目の玉が飛び出た、と口にした選手がいたほどの額である。これまで日本選手が活躍した実績が後輩たちを夢の世界へ旅立たせたのだが、日本球界から大物が抜けて大丈夫か、との不安が出ている。
 高額契約のインパクトは大きい。
 プロ野球がドラフト(新人選択)制度を1965年に導入した理由は「戦力の均等化」と「契約金の高騰を防ぐ」だった。
 とりわけ新人選手の契約金問題は球団財政にもろに響くものだった。ドラフト制度の採用は、慶大のエースで東京六大学リーグ初の完全試合を達成した渡辺泰輔投手と、高校ナンバーワン選手と騒がれた上尾高(埼玉)の山崎裕之内野手に5000万円の値が付いたことがきっかけ、となったというのが定説と語り伝えられている。
それ以後、最高1000万円とされた。
笑えないエピソードがあった。大学中退でプロ入りは可能だった時代の話である。制度導入の前、3年生のとき中退プロ入りを誘われた選手が卒業まで待てばもっと高い契約金をもらえると踏み大学にとどまったのだが、制度導入で1000万円になり、誘われたときに入団しておけば、と残念がったという。
プロ野球の入団時の契約金は様々な問題を抱えた。表面は取り決め通りとしながら裏金で選手を縛ったこともあった。それで球団幹部が処分を受けたほどだった。
バブルがはじけた後、プロ野球はFA(フリーエージェント)制度の時代となり、さらなるマルチ高額となった。現在、物価高なのに超高額契約金で海を渡っている。こうしてみるとプロ野球は世間とずれているように見えるが、これが自由市場というのだろう、と思う。
高額契約金の余波は大きい。日本の数倍以上の年俸となれば後を追う選手が増える。主力が抜けたチームはその場しのぎのように外国人選手の獲得に走り、この12月はそのラッシュだった。
オリックス山本由伸、ヤクルト村上宗隆の両リーグMVPは大リーグ行きの意思を明確にしている。その余震は小さくない。(菅谷 齊=共同通信)