「いつか来た記者道」(56)-(露久保孝一=産経)

◎当たらないのが常識、順位予想 
 プロ野球の開幕が近づくと、ファンの関心はペナントレースの行方に向けられる。
「今年はどのチームが優勝するのだろう?」「どんな順位になるのだろう」 
 ファンの興味を受け、マスコミ各社は評論家やプロ野球担当記者の順位予想を載せ、ムードを高める。わが東京プロ野球記者ОBクラブのベテラン記者たちもチャレンジし、数年前からこのウェブサイトに掲載している。
この予想は、かなり難しい。秋に順位が確定して、春に出した予想を見てみると、毎年、優勝チームの的中率はごく僅か、1~2割程度しかない。これは評論家、野球担当記者の予想も似たり寄ったりで、的中者は少ないのが「常識」なのである。
そんな惨めな結果でありながら、毎度挑戦するマスコミ人は「懲りない面々」である。
順位予想する場合は、新年度の各チームの戦力をまず分析する。主力選手が期待通り働けるかどうか、新戦力の台頭と補強、新監督の力量などを見て、前年より戦力がアップしているかどうかを判断する。そこから順位予想に入る。
しかし、他を圧倒するチームがあればすんなり優勝候補にあげるが、昭和40年代の巨人V9軍団みたいな強力チームは最近見当たらないので、順位予想がしにくいことは確かだ。わずかな差や戦力の変化を見て、順位に反映させている。
▽恐ろしくて面白い「番狂わせ」
 しかし、順位が戦力通りにいかないことは、かなり多い。
その典型的な例は、2021年からリーグ連覇したヤクルトとオリックスである。優勝の前の19、20年は両チームとも連続最下位である。最下位のチームを優勝候補にあげるのは、かなりの勇気がいる。「おまえ、頭がおかしいんじゃないのか」と言われるのがオチである。だから、優勝チームを当てるのは至難の技なのだ。
 ヤクルトとオリックスは、世に言う「番狂わせ」である。22年は両チームに対して「まさか2年連続はないだろう」と多くの記者たちがたかをくくっていたら、その「まさか」が現実になった。
 番狂わせといえば、22年のサッカーワールドカップで日本は、優勝4回の強豪ドイツに逆転勝ちして、ニューヨーク・タイムズは「大きな番狂わせが起きた」と伝えた。政治の世界では、16年の米大統領選で、ほとんどの世論調査がヒラリー・クリントン優勢と報じたが、予想は見事に外れトランプ候補が勝利してしまった。
▽評論家は誰もが大の苦手
 かつての野村克也氏をはじめ「順位予想は大の苦手」という評論家は多い。その人たちの一部は、23年のペナントを「ヤクルトとオリックスはもうはずしても(優勝しない)大丈夫」「もうそろそろ巨人が優勝するかも」「日本ハムだけは番狂わせはない」と勝手気ままな予想をしている。
 選手を見れば、ホームラン王の村神様(村上宗隆)がアーチを量産するか、完全試合男の佐々木朗希がその快挙を再現するか、あるいは22年不調だった菅野智之、坂本勇人、山田哲人、田中将大らの復調なるか、ペナントレース順位争いとともにこちらも大きな話題を呼んでほしいものである。(続)