「野球とともにスポーツの内と外」(48)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎トッププロの研ぎ済まされた感覚
 もうだいぶ前の話…あるプロゴルフ・トーナメントでの出来事です。開幕前の練習ラウンドを終えた中嶋常幸が、道具の契約を交わすメーカーのサービスカーに顔を出しました。手にしていたのは感触を確かめた新しいドライバー。もちろん、まだパーシモン・ヘッドの時代です。
 中嶋が言いました。「(ヘッドが)1円玉分重い」と。エッ、1円玉分? 1円玉といえば机の上に置いてプハッという感じで吹くと1回転してしまうほど軽いアルミ材質の硬貨。直径2センチ、厚さ1ミリ、重さ1グラム。吹けば飛ぶよな将棋の駒さえ脱帽の微調整をメカニックに依頼したのです。
▽1グラムへのこだわり
 スイングスピードが速いパワーヒッターの中嶋は、シャフトのしなり過ぎを嫌い、堅い材質のものを選びます。ヘッドを軽くするように求めたのは、1円玉分のヘッドの重さがもたらす(素人には分かりませんがもたらすのでしょうね)シャフトのしなりが感覚に合わない、ということなのでしょう。作業に当たったメカニックは「一般的に感知出来るのは5グラムくらいからでしょう。プロの研ぎ澄まされた感覚というのは凄いですね」と言って、さて、どこをどう調整したのか冷や汗を拭っていました。
 “二刀流”で活躍するエンゼルスの大谷翔平投手(28)が、MLB6年目を迎えた2023年シーズン、バットを代えました。これまでのアシックス社製からヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手らが使っているチャンドラー社製へ。長さをこれまでの33・5インチ(約85・09センチ)から1インチ(約2・5センチ)長くした(34・5インチ=約86・25センチ)と伝えられています。重さはこれまでと変わらず900グラム。
▽1インチへのこだわり
 注目したいのは、材質を「メープル(カエデ科の常緑樹)」にしたことですね。メープルは、堅くてしなりが少なく高反発。スイングスピードが速いパワーヒッター向きの材質です。
 面白いものですね。大谷と中嶋の接点が思いもかけず、こんなところに出てきました。ついでにさらに昔にさかのぼってみます。プロ野球の黎明期に“物干し竿”を振り回して一世を風靡(ふうび)した故・藤村富美男氏(1992年5月28日死去=享年76)です。
 藤村氏が振り回した長尺バットは37~38インチと言われていました。約92・5~95センチですね。これはゴルフのクラブをヒントにしたと伝えられています。野球では普通、こんなものは振り回せないシロモノ。その長さゆえに相手投手は「弱点は内角低め」と見極めていたそうです。なるほど…このあたりは大谷にも“要注意ポイント”として当てはまりそうです。(了)