「いつか来た記者道」(60)-(露久保孝一=産経)

◎WBCのような熱い野球を漫画に
 フレッシュ1年生は、どの社会でも歓迎され、温かい目で見つめられている。新人たちは、目を輝かせ「明日の働き手」「将来のスター」をめざし実戦の舞台に立とうとしている。プロ野球でも、投手、野手の新人選手が一軍でハッスルプレーを見せている。
 そんな晴れやかな各界のルーキーたちの中に、「マンガ学科」1年生がいる。公立高校では全国初となる同学科が2023年4月、熊本県立高森高校に新設され、生徒はすでに漫画の学習に取り組んでいる。
 マンガ学科の開設前の3月には、野球日本代表の「侍ジャパン」が第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、劇的な優勝を果たし全国で人気を高めた。
アメリカとの決勝戦では、日本が3対2とリードして迎えた九回、リリーフした大谷翔平が、大リーグのチームメイトのマイク・トラウトを三振に抑えて逃げ切った。準決勝のメキシコ戦では村上宗隆が逆転二塁打してサヨナラ勝ちしている。
ドラマチックな試合続きに、マスコミは「漫画のような展開」だったと評した。大谷の力投で勝利した決勝戦は、「漫画を超えた熱きドラマ」という声が響き渡った。
 プロ野球は、公式戦に突入したあと熱い戦いを繰り広げている。新人では、ヤクルト・吉村貢司郎投手、阪神・富田蓮投手、オリックス・茶野篤政外野手、ロッテ・友杉篤輝内野手らが実績を積み重ねている。
▽公立初のマンガ学科に多くの入学生
 漫画の世界では、昭和時代からスポーツものが多く作品になり、その中で野球を描いた漫画は他を圧倒している。
「ドカベン」「巨人の星」「タッチ」「キャプテン」などは爆発的に売れ、21世紀に入ってからも「MAJOR」「ドラフトキング」などが話題を呼んでいる。漫画市場も活気に満ちている。出版物と電子版を合わせた22年の販売金額は、前年比0・2%増の6770億円という。5年連続の成長で、過去最大を更新した。
「鬼滅の刃(きめつのやいば)」は16年から「週刊少年ジャンプ」連載で大ヒットし、フジテレビ系の放送でも好視聴率をあげた。
 こんな漫画ブームの流れに乗り、高森高は出版社の協力を得てマンガ学科を作った。同校は、少子化で生徒数が減り続け、数年前から1学年が30人以下になってしまった。1学年が40人を下回る状態がさらに3年間続けば、県は分校化を検討すると高校に宣告した。
それをなんとか防ぐために、学校側は全国展開できるような学科を作りたいと考えマンガ学科創設にターゲットを絞った。いざ蓋を開けてみれば、23年4月の入学生は40人を数え、広島や兵庫など県外から11人が入った。普通科33人と合わせ73人となり分校化の危機を吹き飛ばした。
 WBCのような劇的なストーリーを描きたい、と夢見るマンガ学科生徒は当然いるはず。生徒たちは、どんな作品をデビューさせるか、どんな漫画のヒット作品を飛ばすか、プロ野球1年生同様に楽しみである。(続)