“黄金の左腕”の名言 (菅谷齊=共同通信)

◎“黄金の左腕”の名言

 「今の選手の練習は疲れたら終わり。そんなのは“野球ごっこ”というんだよ。疲れたところからがホンマの練習なんだ」
 この言葉は、つい先日、86歳で亡くなった400勝投手、金田正一のセリフである。けた外れの数字を残した投手ならではの言葉であり、一流選手に共通する意識といっていい。
 巨人の川上哲治監督が獲得した理由は、金田の野球に対する姿勢だった。巨人に移籍するまでの14年連続20勝の実績はその次で、長嶋茂雄と王貞治を超一流にするために必要だったのである。
 当時の巨人のレギュラー選手は語っている。
 「金田さんの練習は確かにすごかった。長嶋さん、王さんが完全に目覚めたもの。ONが猛練習するもんだから我々もやらなくちゃならない。おかげでサボれなくなったな」
 金田の走り込み、大男を背負っての山登り、食事、体の手入れ…。すべて参考になることばかりで、川上の狙いはずばり当たり、9連覇を支えることにつながった。
 「V9のレギュラーはほとんど変わらなかったはず」
 「金田さんのおかげで選手寿命が延びたもの」
 こんな声は巨人選手ばかりではなく、金田が監督を務めたロッテの選手たちからも聞かれた。
 現在、プロ野球選手は器具を使って体つくりをしている。金田はすべて自分で考えた“手作り調整”だった。むろん、費用がかかった。自分の体に投資してコンディションを整え、好成績を挙げ、高給をつかむ。これが“金田流錬金術”だった。
 だから野球への執念はすごかった。
 「オレは来年も投げるつもりでいたんだ。だけど胴上げされるは、シゲ(長嶋)は泣くし、引退せにゃならなくなったんだよ」
 400勝を挙げたシーンを振り返っての後日談である。くの字に曲がった左ひじを治す気でいたから本音だと思う。
 “黄金の左腕”は永遠のニックネームである。その実体験からの言葉は、球聖からの名言として記憶したい。後輩諸君、練習したまえ、と。(菅谷齊=共同通信)