「大リーグ見聞録」(75)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎日本人大リーガーの日本球界復帰
▽驚いた城島の阪神入り
 大リーグSFジャイアンツから自由契約になった筒香嘉智が4月18日、5年ぶりにDeNAに復帰した。巨人など5球団が争奪戦を展開したと報じられたが、結局、古巣の球団に収まった。
 日本人大リーガーのプロ野球復帰は古巣に戻るケースが多い。黒田博樹(2016年ヤンキースから広島)、青木宣親(2018年メッツからヤクルト)、田中将大(2020年ヤンキースから楽天)、平野佳寿(2020年マリナーズからオリックス)などがそうだ。大リーグで引退するならともかく、野球を続けるなら元の球団に入るのが自然の流れ。地元で実績を残し、人気もある。球団も受け入れやすい。
 そんな中で例外だったひとりがマリナーズの城島健司の阪神入団だった。正直、驚いた。当然、ソフトバンクに復帰すると思っていたので、取材に奔走したのを思い出す。
 城島がプロ野球復帰を考え始めたのは2009年の夏ごろ。出場機会が減ったのが理由だった(その年は結局、出場71試合)。城島は王監督に連絡、気持ちを伝えた。城島は王監督の秘蔵っ子だ。捕手として若いころから起用し続け、一人前に育てた。すぐに獲得する方針を固めた。とはいえ公式戦の真っ最中、自ら動くわけにはいかない。フロント幹部をアメリカに派遣、交渉を煮詰めることにした。そこに落とし穴があった。
▽一部フロントへの不信感
 大リーガーの契約は代理人が行うのが一般的だ。城島も同様だった。本格的な入団交渉になれば、代理人に任せる考えだった。ところがフロント幹部が反対した。これに城島が不信感をいだいた。フロント幹部が代理人の代わりをするような言動があったからだ。
 ソフトバンク(当時はダイエー)はフロント幹部が井口資仁と自由契約の覚書を交わし、2004年の大リーグ移籍を認めた。井口はホワイトソックス入りしたが、それに関連して一部フロントが私腹を肥やしたのでは、と球団内部で問題になった。そうした経緯を知る城島は「俺のホークス復帰でカネ儲けするつもりなのか」と疑惑を抱いた。王監督に経緯を説明、断りを入れ、2009年オフに熱心に勧誘した星野監督の阪神に入団した。ソフトバンクとも交渉の場を持ったが、それはあくまで王監督の立場を配慮してのことだった。
さまざまな記事、情報が報道されたが、城島の阪神移籍に関しては、これが私の取材した結論だった。
 城島は現在、球団付特別アドバイザーに就任。王会長とはもちろん、球団とも良好な関係を築いている。城島は今、「日本に戻るならホークス」という、マリナーズ時代の希望をユニホームではなく、背広姿で実現している。ユニホームを着るのはソフトバンクの監督に就任するときだろう。(了)