「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤彰雄=スポーツニツポン)

◎「たかが野球…」の威力
新型コロナウイルス禍によりスポーツ各界も開催の自粛を余儀なくされてきました。人々が「Stay Home」を強いられ、テレワーク(在宅勤務)で疲れた心身を気分転換しようにも、プロ野球を初めとしてプロゴルフなど各種スポーツが姿を消してしまっていては、やはり、どこか物足りなさが残る日々です。
長い間、スポーツに関わる仕事をしてきて、暗い世の中にこそスポーツの存在は欠かせない、とつくづく思います。その象徴が2011年夏に開催されたサッカー女子のW杯(ワールドカップ)で演じられた日本代表「なでしこジャパン」の大活躍だったでしょうか。
それより前の同年3月11日に未曽有の自然災害「東日本大震災」が勃発します。悲しみと絶望に沈む日本列島…そこに勇気と希望、立ち直る気力をもたらしたのが「なでしこジャパン」の奇跡の初優勝でした。
▽スポーツが持つ底力
米映画「インビクタス(Invictus)/負けざる者たち」(2009年製作=クリント・イーストウッド監督)で描かれた、こんな感動もあります。
1994年の南アフリカ共和国-。反アパルトヘイト(人種隔離政策)の反体制活動家として長年、投獄されていたネルソン・マンデラ氏がその年、解放され、黒人で初の大統領になります。
しかし、依然として白人と黒人の間がギクシャクする国情を1995年、自国開催となったラグビーの第3回「W杯(ワールドカップ)」の場を利用し、南ア代表「スプリングボクス」の快進撃を力として、国を無差別の熱狂の渦に巻き込んでいく、という実話ですね。
スポーツには、こういう力があるのです。
▽夢を失った球児のためにも
やっとトンネルの出口にたどり着きました。政府が5月25日夕刻、最後に残った5都道県(北海道、東京、神奈川、千葉、埼玉)への「緊急事態宣言」を解除。約7週間ぶりに全面解除となったことにより、苦渋の日々を送っていたプロ野球界が、待ちに待った「開幕」のメドを立てました。
政府の意向を受けて同日、NPB(日本野球機構=斉藤惇コミッショナー)が12球団代表者会議をオンラインで開き、6月19日の開幕を発表したのです。
当初の開幕日3月20日から3カ月遅れの開幕。形は当面「無観客」など感染リスクを念頭に置いたものとなりますが、今はとにかく、まず“快音を社会に響かせる”ことが先決です。
「これによりプロ野球以外のスポーツにも開催の指針が示せればと思う」
と斉藤コミッショナー。
観(み)る側を沸かせる。たまった憂さを晴らす。明日への活力を生む。それが“国民的スポーツ”という重責を担う野球の使命でしょうね。
高校野球界では、史上初の春・夏中止を決断せざるを得ない、残念な出来事を余儀なくされてしまっただけに、高校生たちにも再び夢を持たせる熱戦を期待したいものです。(了)