「100年の道のり」(33)-プロ野球の歴史(菅谷 齊=共同通信)

◎沢村打たれ東鉄に連敗、揺れる巨人
 巨 人 000 001 000 1
 東 鉄 000 030 10X 4
 この巨人の敗戦は、その後のチーム改革に影響を与えた。
 試合が行われたのは全国遠征最後の第4期関東シリーズで、11月3日、球場は大宮。東鉄とは東京鉄道管理局のことである。大宮が地元というところから大宮で試合をするときは全大宮と名乗り、大宮以外では東鉄として都市対抗などに出場した。
 巨人はエース沢村栄治が先発。ところが打ち込まれて敗れた。沢村は遠征で1敗しているが、それがこの一戦だった。
 東鉄の監督は早大出身の藤本定義。巨人が熊本鉄道管理局に負けた試合の情報を手にし、さらに自ら巨人の戦いぶりを見、それを元に作戦を立てた。エースの前川八郎が巧みにかわした。
 「沢村攻略は外角のストレートを狙え」
 藤本は打撃陣にそう指示。4回裏、先頭打者がそれを狙い打って右前安打し、チャンスを作った。1点を挙げたあと前川が長打を浴びせて3点を奪った。前川は、ストレート狙いに気が付いてカーブで攻めてくるだろう、と読み、沢村の決め球をとらえた会心の一打だった。
 エピソードがある。
 試合前、東鉄の選手たちは「勝ったら巨人選手が着ているジャンパーを買ってくれ」と藤本に提案、約束させた。当時としてはかなりの高級品だった。藤本は会社に掛け合って全員に配布した。
 収まらないのは巨人である。東鉄とは1勝1敗となったことから「雌雄を決しようではないか」と第3戦を申し込んだ。
 それから1週間後の9日、東京・戸塚で対戦した。
 巨 人 000 003 010 4
 東 鉄 000 540 00X 9
 返り討ちに遭ってしまった。東鉄は計16安打を放ったが、そのうち10本は4、5回に集中して浴びせた。巨人の打線は変化球投手にかわされ、惨めな敗戦を味わった。リリーフ沢村も打たれた。
 東鉄は、今度は選手たちに外国製の中折れ帽子を配った。勝利のご褒美である。
 巨人に対しては風当たりが強くなった。「何しにアメリカ遠征に行ったんだ」と。(続)