第40回 ヴァン・リングル・マンゴー- (島田 健=日本経済)
◎選手名だけでもジャズ
▽歌詞に困った挙句
1969年(昭和44年)、米国のジャズピアニストで作詞、作曲もこなすデイブ・フリッシュバーグ(33年生まれ)は、曲想が浮かんだものの、作る歌詞に納得できない。そこで思いついたのが、米大リーグの野球百科事典で、選手名のリストから見つけ出したのがマンゴー投手だった。31年から45年まで活躍して120勝、オールスター戦にも5回出場したそこそこの選手だったが、注目したのは名前の発音で非日常性も感じたという。
▽40年代の選手が42人
キーネームが決まると、後はリストからひたすら変わった名前や面白いものを選んで、40年代の選手中心に計42名の選手が決まった。これをメロディーとリズムに合わせて並べていく。どうしても合わないところは形容詞のビッグと接続詞のアンドを使ったが、まさに名前の羅列である。最初のコーラスは「ヒーニー・マジェスキ ジョニー・ギー エディー・ジュースト ジョニー・ぺスキ ソーントン・リー ダニー・ガーデラ」、そしてリフレインにも使われる「ヴァン・リングル・マンゴー」となる。
▽殿堂入りは4人
42選手の中で1名以外は06年から22年の生まれ。69年にしても古い選手ばかりだ。たまたま開いた部分がその年代だったようだ。ドジャース初期の黒人選手として有名なロイ・キャンパネラなど殿堂入り選手も4人いるが、あまり有名でない選手もたくさんいる。名前を並べただけでつまらないのではないかと思われる方も多かろうが、さすがはジャズピアニスト。ボサノバ風のピアノに乗って渋いボーカルは結構聞き応えがある(歌も本人)のに驚いた。
▽借名料はゼロ
当時でも古い選手ばかりなので、42人のうちフリッシュバーグが会ったことがあるのは、ただ一人マンゴーだけだった。69年、ニューヨークの舞台を見にきていたマンゴーに弾き語りでこの唄を披露したところ、楽屋に訪ねてきて「俺の名前の曲なんだから、いくらかもらえるんだろうな」と言われた。答えは「ノー。気が済まないんだったら、家に帰って『デイブ・フリッシュバーグ』という曲を作るんだな」。マンゴーは「やってやるとも」と意気込んだそうだが、もちろん実現はしなかった。ただ、この歌によって、彼の名前が人々の記憶にしっかり刻まれたのは確かである。
検索は「Van Lingle Mungo Dave Frishberg」(了)