「大リーグ ヨコから目線」(40)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎日米ヒゲ、長髪考
▽代名詞の顎ヒゲをバッサリ
 レンジャースからヤンキースにトレードで移籍したロウグネッド・オドーアの風貌がファンの間で話題になっている。オドーアといえばレンジャース時代、30本以上の本塁打を3度打ったパワーヒッターだが、首が隠れるほどの長い顎ヒゲでも知られていた。
「いた」と過去形にしたのは、4月6日にヤンキースに移籍すると、代名詞となっていた自慢の顎ヒゲをスパッと剃ってしまったからだ。これには「まるで別人!」と周囲も驚いたが、小さな娘さんも父親のあまりの変わりように、寄り付かなくなってしまったとか。
 オドーアがヒゲを剃ったのはヤンキースの「ヒゲ、長髪は原則禁止」というチーム方針からだ。個性的な髪形や髪色、スキンヘッド、ヒゲが当たり前のメジャーリーグでは珍しい。
 プロ野球でも今季、同じようなことがあった。DeNAからFAで巨人に加入した梶谷隆幸がはやしていた口ヒゲを剃ったのである。これまでも日ハムの小笠原道大(現日ハムコーチ)が巨人へのFA移籍に伴い、ヒゲを落とした。古くは大洋(現DeNA)から巨人入りしたジョン・シピンが「ライオン丸」と言われたトレードマークの長い髪を切っている。「巨人軍は常に紳士たれ」という故正力松太郎オーナーの遺訓に従ってのことのようだ。
▽ヒゲを剃ると「去勢」される?
 もっとも巨人選手は長髪、ヒゲが必ずしも禁止されているわけではない。1993年に横浜(現DeNA)を自由契約になり、巨人に入団した屋舗要はかつて取材にこう答えた。
「巨人入りに際して長嶋監督に『口ヒゲを剃ります』とお話ししたら、『そのままでいい。それが君の個性だから』と言われ、そのままプレーしました」
 屋舗は同年の巨人日本一に貢献した。
 外国人選手も同様だ。やはり長嶋監督時代の1994年にデトロイト・タイガースから移籍したダン・グラッデンも口ヒゲと長髪だったが、そのままで変えることはなかった。入団した年のヤクルト戦で西村龍次の頭をかすめる投球に激怒。マウンドに向かったグラッデンは止めに入った捕手の中西親志と長髪を振り乱して殴り合いに。両軍入り乱れての乱闘に発展。2本の指を骨折した上、罰金10万円、出場停止10日間の処分を受けた助っ人を記憶しているファンも、少なくないないだろう。
  長嶋監督は、乱闘はともかくとして、グラッデンのファイティング・スピリットを称賛していた、と聞いた。その長髪と口ヒゲがグラッデンの迫力をより強めたに違いない。長嶋監督は選手の個性である長髪やヒゲを切ったり、剃ったりすることで、選手が精神的に「去勢」されてしまうことを心配したのかも知れない。
「巨人軍は常に紳士たれ」という正力オーナーの遺訓は単に見た目だけではなく、野球選手としての生き方、考え方を示しているのはないだろうか。(了)

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