第41回 恋のナックルボール-(島田 健=日本経済)

◎やっぱり直球がいい?
▽大の野球好き
 「君は天然色」や「幸せな結末」などのヒット曲で知られ、松田聖子に「風立ちぬ」を提供したシンガーソングライター大瀧詠一は2013(平成25)年、65歳で急逝した。相撲も大好きだったが、中学生まで部活していたという野球には一家言があったそうだ。
長嶋茂雄さんのファンで、巨人-ヤクルト戦のラジオ中継にゲスト出演もした。「4月になれば 外はポカポカ ゴンベ種まく」で始まる「Baseball-Crazy」というユーモラスな曲もある。そんな大滝が84年にリリースした「Each time」というアルバムの一曲である。
▽作詞は松本隆
 大瀧と組むことも多かった松本隆の詞は「恋のナックルボール ストレートに愛してると言えば良かったのさ」「気をひくための冷たいポーズ」と恋愛の手管として直球でなく変化球を多用したことの悔いを表したものだ。結局は「ストライク狙って 最後のボール 投げるだけ」と正攻法がやっぱりいい、という結論だ。
▽前田行長バージョン
 ナックルと言えばロッテ-中日-巨人と活躍した前田幸長の名前が浮かぶ。完全な無回転ではないが、揺れて落ちるいいボールだった。巨人時代に登場曲を選んでいた担当者が音楽評論家の能地祐子さんにアドバイスを求めたところ、この歌を紹介されたそうだ。
ただ、歌詞の一部「変化球の指が滑り青空に消えた」を見た他の選手が、「打たれるのはまずいんじゃないの」とクレーム。これを省いた「前田幸長バージョン」を作ることになった。
▽ニークロ大滝
 何事も凝るのが大瀧だが、登場曲用の短縮盤でもジャケットを作ったようだ。左腕投手が投げているイラストで、作曲者には異名好きな大瀧らしく、「ニークロ大滝」とクレジット。Produced by Yuko Nohji とある。
ニークロと言えば米大リーグのフィルとジョーのナックルボール兄弟。敬意を表してつけた変名である。
この前田幸長バージョンのジャケ写真が20年3月に出た追悼盤、デビュー50周年記念「ハッピーエンディング」の初回限定版のボーナストラックに載っている。
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