「菊とペン」(23)-(菊地 順一=デイリースポーツ)

◎新年に思うこと…
 2022年がスタートした。21年もコロナ禍で始まり、コロナ禍で終わった。オミクロンなんていう変異株が出現し、さて今年はどんな年になるのか。
 「門松は冥途の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」
これは一休(宗純)が著した詩集に掲載されている狂歌だそうで、正月だとただ浮かれず、また年を取って確実に老いていくことを自覚しなさいというアドバイスである。
 私は今年67歳になる。若いころは正月にこの狂歌を聞いても、「まあ、そうなんだな」と気にせずにいられたが、60歳を過ぎたあたりから心に響くようになった。
 健康で長生きする。このためには節制が必要だが、わが身を振り返れば、年末から年始にかけて早い時間帯から酒を飲んでゴロゴロし、寒いという理由を付けてはろくに運動もしない。挙句、「やめよう、やめよう」と誓いながらもタバコを吸い続けている。これまで禁煙に何度か挑戦したがことごとく失敗した。
 酒やタバコをやめたら、そりゃ身体にいいだろうし健康長寿に近づく。だが、その一方で、こんな都都逸が浮かぶ。
 「酒もタバコも女もやらず百まで生きた馬鹿がいる」
教えてもらったのは元巨人監督・藤田元司さんである。89年から92年にかけて2度目の監督を務められた。当時、巨人はグアムで春季キャンプを張っていた。私は担当記者である。どの年だったか忘れたが、出発の日、成田空港にかなり早く着いてしまった。藤田監督も同じだったようで、バッタリ出会い
「お茶でも飲もうか」と誘われた。
 いろいろなお話を伺って、時には世間話にもなった。なんの拍子か、藤田さんが「知っているか?」と前述の都都逸を持ち出したのである。
 担当記者は30代中盤で、血圧が徐々に高くなっており、痛風の気も出ていた。医者からは生活習慣病になると脅され、酒やタバコを控えるようにと忠告されていた。私はそんなことをぼやいたのだと思う。
 ご存じのように、人生の楽しみは長生きではない。自分のやりたいことを思い切りやる。もっともっと愉しみなさい。この意味が込められている。
 藤田さんは心臓病を抱えながらも巨人監督の激務を背負い指揮を執っていた。私のボヤキや悩みなど小さい。こう思ったのかもしれない。
 現代、健康を追求する人間が多くなった。健康雑誌があふれ、健康食品も数多く出回っている。酒もタバコもやらない。こんな若者が増えているという。
私、最近は健康診断などで悪い数値が出るとすぐにこの都都逸が出るようになった。これからも酒とタバコは必須だろう。二日酔いの頭でこんなことを思った次第である。(了)