「大リーグ見聞録」(54)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎審判のジャッジトラブルのタネは尽きない
▽「ストライク!」に首を傾げる大谷
今季ほど大リーグで審判の判定が問題になっているシーズンはないだろう。ストライクゾーンを外れたボールが「ストライク!」とコールされ、大谷翔平が首を傾げ、「ボールだ」と手を振るシーンがしばしば見られる。テレビ局のアナウンサーやコメンテーターが球審の「ストライク」の判定に異を唱えることも珍しくない。
5月4日はヤンキースの主砲ジャッジに対しする低めボールを球審が2球続けて「ストライク!」。ブーン監督が猛抗議して退場処分になった。6月5日にはアストロズのプレスリーがテイラーに2球続けて内角に投げ、球審から警告。これにプレスリーが不満を表し、やはり退場処分に。
「顔の近くならともかく2球とも腰から下だ。メジャーではいつから内角に投げてはいけなくなったんだ!」とプレスリー。こうしたトラブルが起きるたびに「あの審判をクビにしろ!」とファンが騒ぎ立てる。
もっとも審判のジャッジは昔から物議をかもしてきた。古い資料を見たら、ホームプレートでのクロスプレーでネクストバッターサークルにいた選手が退場になった例が出てきた。1986年6月5日のパドレス対ブレーブスの試合。3回裏、パドレスはランナー二塁でヒット。二塁走者がホームに滑り込んだ。タイミングは完全にセーフ。ところが球審は少し遅れて「アウト」のコール。これを見た次打者のスティーブ・ガービーがバットを持ってホームプレートに行き、「ここに走者はタッチした」と球審に説明。その間、二言、三言、言葉を発したが、球審は「次打者のお前が何で口出しするのだ!」と激怒。ガービ―に「ゲット アウト!(退場)」。
ガービ―はドジャース時代から「ナイスガイ」と呼ばれ、温厚な人柄で知られていた。19年の長い球歴でも退場処分はこれが初めて。それもあってかアメリカでも大きな話題になったようだ。
▽プロ野球では監督が評価
日本でも4月24日のロッテ・オリックス戦で白井球審の「ボール」の判定に、ロッテの佐々木朗希がマウンドから2、3歩降りてホームプレートに。これを見た白井球審がツカツカと佐々木に詰め寄り、大きな問題になったのは記憶に新しい。佐々木の態度を判定への不満と受け取ったからだろう。
今はどうなっているか分からないが、私が現場で取材していたころはリーグがベテランの審判を球場に派遣。お忍びで審判の判定を採点し、各球団の監督に個々の能力や評価を聞いた。審判は日頃から技術の向上や体力の維持や図っていた。
以前、パ・リーグの審判部長を務めた田中俊幸さん(故人)に日米の審判について聞いたら、こう言っていた。
「『権威』ではメジャーの審判に及ばないが『正確度』では日本が上ではないか」
大リーグでは2014年からビデオ判定(チャレンジ)が導入され、今年はジャッジトラブルが多発。米データ会社はITを使って球審の「ボール」「ストライク」の判定の正誤率を調査する(6月23日のエンゼルス対ロイヤルズ戦では球審が11球を誤審、正誤率94・1%と判定された)。メジャー審判の「権威」も風前の灯か。(了)