「野球とともにスポーツの内と外」(39)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎コロナ禍のスポーツ各界
 新型コロナウイルスの感染急拡大に歯止めがかかりません。ここに来て聞き慣れない「サル痘」なるウイルス感染症も登場。感染者増は社会インフラにも影響が出始め、容易ならざる事態に進む気配が感じられます。
 スポーツ各界にも多大な影響が及ぼされました。先に終了した(7月24日千秋楽)大相撲名古屋場所の終盤戦。力士の間に新型コロナウイルスの感染者が続出し、7月22日の13日目は18番が組まれていた幕内の中入り後で休場者が相次ぎ、5番連続を含む計7番が「不戦」となったのです。
 その前日の12日目(7月21日)は、三段目と幕下の取り組みでそれぞれ両者休場となり「両者不戦敗」などという笑えない珍事? まで起きています。これはもう観客にとっては、興醒めのブーイングもの。入場料を取る興行として成り立たない事態となりました。
▽相次ぐコロナ感染者に苦慮
 大相撲界の出来事を“対岸の火事”として指をくわえて眺めているわけにはいきません。プロ野球界も7月下旬までに大量の陽性者が判明。巨人は原辰徳監督を初め、菅野智之、大勢(投手)、岡本和真、中田翔(内野手)、丸佳浩(外野手)に加え、元木大介ヘッドコーチら計76人の大量感染者が判明(前半戦終了時まで)しています。
 さらにセ・リーグの首位を走り、連覇を狙うヤクルトも高津臣吾監督ら計23人が、パ・リーグでは日本ハムの“BIGBOSS”こと新庄剛志監督ら計29人が陽性判定となっています。
 大相撲界にしてもプロ野球界にしても、集団行動という日々の生活様式が「密」を回避しにくく、制限というガイダンスを持たなければ、クラスター(集団感染)を生んでしまう要素は多々あります。特に今回の第7波に対しては、第6波以前には頻繁にあった「蔓(まん)延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」の措置などが下されず、人々への行動制限は見送られています。
▽ファンの納得度を最優先に
 政府の「社会経済活動の復活」を求める方針によるものですが、その恩恵によってプロ野球各球団は、観客を上限なしに入場させています。であるなら興行主側は、制限があったとき以上に「観(み)る側」と「見せる側」両面により慎重になるべきでしょう。お金を払って会場に足を運ぶ観客に対しては、すべてに納得するコンテンツ(中身)を提供することが主催者側には必要になるからです。
「コロナだから、感染症だから、仕方ない」ではなく「だからこそ」プロ野球の持つ力を示してもらいたいものです。あの名言を覚えていますか? 2011年3月11日に勃発した東日本大震災。日本野球機構は死者への追悼、復興支援に向けたチャリティーマッチを行い、その際に被災地の楽天・嶋基宏捕手(現ヤクルト)が行ったスピーチです。
「見せましょう。野球の底力を」
 何とインパクトの強い言葉でしょうか。プロ野球ファンだけでなく国民の心までも熱くした言葉は「こういうときこそ一丸となって戦おう」という熱い気持ちが込められました。
 そしてそれは…再び「今こそ」でしょう。(了)