◎球界を救った選手会(2)-(菅谷 齊=共同通信)

◎関西で大ぴらに
 「八百長問題があるから注意してチームを作ってくれ」
 関西のある球団に監督をまかされた人物は、球団代表にそうアドバイスを受けたが、大丈夫と返事をした。ところが関西の球団のなかではびこっていた悪さは、想像をはるかに超えるものだった。
 戦争が終え、プロ野球が再開された1945年ごろの話である。
 その監督が述懐している。
 「ある選手が殴られた。脱衣所で、それも私の目の前でだ。殴っているのは、いわゆる“その筋”の男だよ。損をした賭け屋だね。どうして殴られていたかというと、仕組んだ八百長をやらなかったから。そのくらいひどかった」
 各球団とも実態はある程度つかんでいたという。しかし、何の手も打たなかった。見て見ぬふりをしていたということである。
 敗退行為、すなわち八百長の誘惑は試合に出る選手、つまりレギュラーが狙われた。当時は選手の給料が安く、安易に酒場にも行けなかった。その筋は、選手に近寄るのは「同郷だから」とか「同窓生だから」などの口実で近づき、最初は食事から始まり、頻繁に酒を飲む間柄になる。タニマチである。
 そこから本筋に入る。
 「親しくなったところで、タニマチが本性を現すんだな。組の者、とね。親分が(金に)困っているんで助けてくれないか」
 普段のお返し、と1回付き合う。けれどもこれで終わらない。2度目を断ると、1回目をバラすぞ、と脅され、そこから深みにはまっていく。そういう選手が多かった。
 生活苦が背景にあった。
 別の球団の監督経験者も苦労した。
 「証拠を握って随分選手を切ったな。心を鬼にしてな。プロ野球界の将来を考えたら仕方なかった」
 一緒にグラウンドで汗を流した仲間を追い出すわけだからつらかったと思う。
 関西の繁華街といえば、大阪のミナミ、兵庫の神戸。安月給取りの選手が何度も顔を出せば、うん? となる。ファンの目もある。(続)