「いつか来た記者道」(57)-(露久保孝一=産経)

◎世界の子どもの命を救うホームラン 
プロ野球の一流選手といえば、一般的に投げて、打って、走って華やかなプレーを見せ、高い年棒で豊かな生活を送っている、というイメージを持たれているのではないか。その一方で、表面に出ることは少ないが、グラウンドの外で寄付、贈呈などによる社会貢献活動をしている選手も多くいる。
 ソフトバンクの柳田悠岐外野手は、国連WFP(世界食糧計画)に390万円の寄付をしていることが話題になった。2022年12月に国連WFPが明らかにしたもので、柳田選手はホームラン1本に付き15万円の寄付をすることに決めていた。いわば「成績連動型寄付」という方式で、打てなければ積み立て金は増えないので、その目標達成に向かって本人を刺激し続けたのである。
▽柳田と青柳が社会貢献活動に力
 WFPは世界最大の人道支援機関であり、食糧支援を通じて紛争や災害から影響を受けた人たちに援助し命を救っている。柳田選手は、福岡に拠点を置く「SOS子どもの村JAPAN」にも同額の寄付をしていた。ホームラン1本、1本が、世界で人道支援につながっているのである。
 同選手は、豪快なスイングが魅力の強打者であるが、本人の打撃特徴は「安打製造機」である。15年と18年に首位打者、22年までの通算打率は3割1分5厘という超優等生の成績を維持している。
 選手の社会貢献活動は、柳田選手のように寄付をする選手がほとんどだが、中には児童に本を寄贈している選手もいる。阪神の青柳晃洋投手は、出身地の横浜市鶴見区への社会貢献活動として、22年に同区内の公立小学校22校と市立保育園4園に本や絵本を贈った。1勝につき10万円、同年は最多勝の13勝を挙げて130万円分相当を本や図書カードに当てた。
 『夢をかなえるゾウ』や『小学館の図鑑NEOドラエもん14冊セット』などを寄贈した青柳投手は、「どんなことでもあきらめずに必死に続ければ夢はかなう」という言葉を生徒たちに伝えた。
▽子どもを励まし選手は元気をもらう
 プロ野球界の社会福祉支援の運動は、かつては選手個人の意志でおこなわれていた。松井秀喜、赤星憲広、増田達至、中村剛也らを含め多くの選手たちの活動は知られていた。近年、球団も関心を高め選手と協力して推進するようになる。
令和時代に入り、日本プロ野球選手会が活動を始めた。炭谷銀仁朗会長を中心に各球団の選手会長が社会貢献運動を呼びかけ、選手全体が一致団結して取り組むようになった。集まった支援金は多額にのぼり、社会各層から高い評価を得ている。協力している選手たちは、子どもたちを励ますことによって、自分たちも元気をもらい互いに願望という気持ちになっている。
 23年のペナント・レースは、熱いせめぎあいの中で、選手たちがその戦績の果実をもとに社会に貢献していこうとする努力にも注目していきたい。(続)