「大リーグ見聞録」(64)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎地球温暖化で本塁打が増える?
▽空気抵抗の低下
 今年(2023年)の4月7日(日本時間8日)、AP通信が大リーグに関して興味深い記事を配信した。
米国ダートマス大の研究チームが「地球温暖化によるMLBの本塁打数増加の影響」との論文を発表。その中で1996年から2019年までの約10万試合、22万打球を検証したところ、地球温暖化で空気抵抗が低下。打球の飛距離が伸び、2010年以降の約500本は温暖化によるホームランとの結論が出たという。
またイリノイ大学の物理学者アラン・ネーサン氏も同様な調査、研究を実施。ほぼ同じ結論に達したという。
天気や球場などの条件にもよるが、気温が1度上がると年間の本塁打は1%増える(ちなみに2022年の総本塁打数は5150本)。中でも屋外球場でのデーゲームが顕著で、気温が1度上がるとホームランが2・4%アップするという。
近年、「ボールが飛ぶ」は大リーグのフロント、選手の間でも話題になり、こうしたデータが明らかになったことに対して、納得する関係者は多いそうだ。
「ボールが飛ぶ」といえば、メジャーでは過去にも問題になったことがある。1998年にマーク・マクガイア(カージナルス)が70本、サミー・ソーサ(カブス)が66本のホームランを記録。ロジャー・マリス(ヤンキース)のシーズン最多の61本を2人が37年ぶりに更新した。2001年にはバリー・ボンズ(ジャイアンツ)が73本を放っている。
▽ボールに細工の歴史
当時、噂になったのが「飛ぶボール」だ。1994年8月から95年4月にかけ、大リーグは労使協定を巡って232日間のストライキ。ワールドシリーズも行われず、オーナー側と選手会にファンの批判が集中。ストが解除されシーズンが始まったが、深刻なファン離れを起こした。
その対策として、MLBはボールの縫い目をきつくすることで反発力を強め、飛距離を延ばす細工をしたと言われた。本塁打を増やすことで話題を作り、ファンを再び球場に呼び戻そうとしたというのである。
 ボンズやマクガイアは薬物疑惑が付きまとい、果たしてボールだけが本塁打量産の理由かは分からない。だが、かつてMLBの球団が地域の気候に応じて、ボールを湿られて飛ばなくしたこともあった。
記事の中には2021年シーズンの前に、MLBがボールに対して、飛距離を落とすような、わずかな調整を行ったとの記述もある。そういえば、昨年、大谷翔平は「今年はボールが飛ばないような気がする」と話したこともあった。MLBもすでに手を打ち始めたのだろうか。
 今後、ますます進む地球温暖化にMLBはでどう立ち向かうのか。ボールに細工をするのか、それとも球場温暖化に影響されないドーム型にするのか(調査ではタンパベイの屋根付きのトロピカーナ球場は温暖化の影響がほとんどない)。それとも成り行きに任せるのか。いずれにしろ、大谷のホームランの楽しみ方がまた増えた。(了)