第6回 トリプルスリーの男たち、ミスター長嶋の場合は?―(露久保孝一=産経)

▽山田哲人は輝く史上初の3度目

ヤクルトの山田哲人(てつと)が前人未到の偉業を達成した。2018年レギュラーシーズンで、トリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)をマークしたのだ。2年前にプロ野球史上初となる2度目を成し遂げており、今度は3度目である。34本塁打、33盗塁、打率3割1分5厘という見事な内容だった。
 トリプルスリーは、3部門のうち1つでも突破できればリーグで上位の活躍をした証になる。山田は、3つすべでレベルを超えしまったのだから、他を圧倒して「超ド級」の奮闘をしたことになる。
 2017年は、打率2割5分にも届かない不振に喘いだ。オフには、悔し涙を流しながらバットを振りつづけた。その屈辱を乗り越えての復活となった。

▽長嶋は“あと1本”出れば10人の仲間入りだった

トリプルスリーは、プロ野球の歴史で10人が記録している。
 山田以外では、1950(昭和25)年の岩本義行(松竹)の打率.319、39本塁打、34盗塁から始まって、別当薫(毎日)、中西太(西鉄)、蓑田浩二(阪急)、秋山幸二(西武)、野村謙二郎(広島)、金本知憲(広島)、松井稼頭央(西武)、柳田悠岐(ソフトバンク)まで達成者が現れた。それぞれ1度だけである。
 53年の中西から蓑田までは29年間も不在だっただけに、トリプルスリーはいかに困難かが分かる。
 その栄光のトリプルスリーに、わずかに及ばなかった選手は結構いる。
 長嶋茂雄(巨人)もその一人。新人の年の58年に打率.305、37盗塁しながら本塁打は29本だった。あと1ホーマーでトリプルスリー達成者に名を連ねたところだった。
 その“あと1本”は、外野席に打ち込みながら一塁ベースを踏み忘れたためアウトになったものある。実質30本塁打だった。しかしながら打点とともに本塁打のタイトルを獲得している。記録とはなんとも奇奇怪怪なものである。
 「もう少し」だったのは井口資仁(ダイエー)。本塁打で3本足りなかった。イチロー(オリックス)も5本少なかった。また山本浩二(広島)は、盗塁が6つ足りなかった。3選手とも他の部門でタイトルまで取っており、トリプルスリーという点では残念だった。

▽イチローとは違う山田の打撃の考え方

そんな極めて難しい「大記録挑戦」とはいえ、イチローは本塁打を30本突破していれば、合計して12度もトリプルスリーが達成可能だった。長距離打者ではないイチローにしてみれば、本業ともいうべき打率と盗塁で高い数字を残しているのだから燦然と輝く記録の持ち主ではある。
 山田はすごい、という評価は当然ではあるが、イチローと山田は打者としての「性格」が違うため、比べることは邪道であろう。
 山田は3度目の達成のあと、「シーズン前から個人的な目標にしていた」と、決意を抱いてのチャレンジだったことを明かした。山田の打撃は、「良い時はワンスイングで仕留められる」という、いわゆる一撃必殺である。それは、打ちにいった球を正確にとらえることを意味する。ファウルを打つと好結果は出ないという理論である。
 イチローはファウルして好球を待つタイプである。セ・リーグに、イチローとは違う、山田という新しい伝説の男が生まれた。(了)