「大リーグ見聞録」-荻野通久(日刊ゲンダイ)

◎シャワールームとワインクーラー

▽飲まなきゃやってられない?

大リーグの取材で球場やさまざまな施設も見学する機会に何度が恵まれた。 サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地を取材したとき、驚いたことがあった。
 コーチの部屋が選手ロッカーの隣にあった。中にはテーブルやホワイトボードなどがあり、試合前にここでミーティングを行ったり、試合後にはその日のゲームの反省をしたり、次戦の対策を立てたりするのだろう。そこまではテレビなどで見るプロ野球の球団の施設と似たようなものだった。
 ひょいと隅をみたら、何やらワインクーラーのようなものがある。ビールくらいなら、乾いた喉を潤わすためにちょっと口にすることもあるかも知れないが、ワインとなると…。
 そこで案内してくれた担当者に聞いてみた。
 「あれはワインクーラーだよ。中にはいつも何本か入っているよ」
 との答え。
 サンフランシスコの近辺にはナパ・バレーという、世界的に有名なワインの産地が広がっている。大小合わせて約600のワイン醸造所もあると聞いた。なるほど、と思ったが、ちょっと待て、だ。選手はみな車を運転して球場入りする。コーチだって同じはずだ。
 ワインクーラーにワインを冷やしてあるということは当然、飲むためだろう。快勝して祝杯を挙げるのか、それともボロ負けして飲まなきゃやってられない、となるかはともかく、いずれにしてもグラスを傾ける。ついつい飲み過ぎということもあり得るのではないか。それで心配になってまた聞いてみた。
「ワインを飲んで車を運転したら、酔っぱらい運転で危ないだろう」
 すると担当者は涼しい顔をしてこう答えた。
「そういうときはウーバーで帰っているよ」
 タクシ―でなくウーバーなのがいかにもアメリカだ。

▽メニューにGYOZA

コーチの部屋の奥には監督の部屋があった。その一角にはシャワールームが設備されていた。監督専用だ。納得いく試合にさっぱりと汗を流したいこともあれば、頭からひとりシャワーを浴びてすべてを忘れてしまいたい心境になることもあるに違いない。
 選手のロッカーものぞいてみた。選手1人ひとりに1・5㍍ほどの個人用ロッカーが用意され、ユニホームや練習着、Tシャツなどが吊るされている。ロッカーの下部は引き出しで、上部は帽子などを置く棚だ。その前に椅子があり、そこに座って選手はスパイクを履いたり、ユニホームに着替えたりする。
 ロッカールームには大きなソファーが8つ置かれ、大型テレビが数台あった。試合前、ソファーに座って、選手はテレビを見たり、雑誌を見たり、音楽を聞いたり、トランプをしたりするそうだ。
 選手の食堂もあったので、見てみると棚にズラッーと瓶が並んでいる。よくみると様々な調味料だった。メジャーリーグには様々な大陸、様々な国から選手がやってくる。味付けも多種多様なるからだろう。 
 そういえば以前、タンパベイ・レイズの試合後、ロッカーに取材に行ったら、選手の食事のメニューに「GYOZA(ギョーウザ)」とあったのを思い出した。(了)