「大リーグ ヨコから目線」(25)-(荻野通久=日刊ゲンダイ)

◎米球界「野球殿堂」とイチロー

(所属先は活躍した、もしくは最終所属球団)

▽野球人には「最高の栄誉」

 2020年1月21日(日本時間22日、令和2年)の殿堂入り選手の発表を見て、大リーグの「野球殿堂」(THE HALL OF FAME)の重みを改めて感じた。
 現役時代、度々、大リーグのオールスターの取材に出掛けた。
 開催都市ではコンベンション・センターなどで「オールスター・ファン・フェスタ」が開催される。会場では往年の名選手がファンとのトークショーやサイン会、あるいは各種イベントに出席する。
 その際、アナウンサーが選手、監督などの紹介で、いの一番で言うのが「THE HALL OF FAMER」(殿堂入りメンバー)の称号だ。もちろん殿堂入りしている人に対してだけだが、所属球団やタイトル、通算成績などはその後だ。
 昨年、久しぶりにクリーブランドでの球宴に出かけたとき、「ファン・フェスタ」に寄った。
 サイン会に史上4人目の400本塁打、300盗塁のアンドレ・ドーソン(エクスポズ、10年殿堂入り)、監督として歴代3位の2728勝のトニー・ラルーサ(カージナルス、14年同)が来ていたが、やはり「ザ・ホール・オブ・フェイマー」と紹介されていた。
 20年に「野球殿堂」入りしたのは資格1年目で歴代6位の通算3465安打のデレク・ジーター(ヤンキース)と、資格10年目で通算2160安打、首位打者3度のラリー・ウォーカー(ロッキーズ)の2人。特にジーターは発表の当日、自宅で「野球殿堂」の担当者からの連絡を待つ様子がネットで中継されるなど、高い関心を集めていた。
 ジーターが注目を浴びたのには理由があった。
 19年のマリアノ・リベラ(ヤンキース)に続いて、史上2人目の満票で殿堂入りすると見られていたからだ。殿堂入りは全米野球記者協会に10年以上在籍する記者による投票で決まる(75㌫以上で当選)。ジーターは396票。満票にあと1票足りなかった。
 それでもジーターは、
 「言葉にならない。最高の栄誉だ」
 と喜びを語っていた。

▽満票を集めるかが最大の関心

 ジーターが果たせなかったことで、話題になっているのが「次の満票殿堂入りは誰か?」だ。
 その有力候補の一人として名前が挙がっているのがイチローだ。イチローはメジャー1年目の2001年に首位打者、盗塁王と新人王。10年連続200本安打を放ち、04年にはシーズン最多の262安打を記録。
 走攻守のすべてでスピードあふれるプレーを見せ、「パワー偏重のメジャーの野球を変えた」とまで言われた。実績から判断すれば、日本人大リーガー初の殿堂入りは確実だ。
 ただ、満票となると、疑問を持つ記者も少なくない、とか。現役時代、イチローは報道陣にあまり協力的ではない選手と見られていた。
 私もオールスター出場選手が試合前日に行われる選手個々の取材で、イチローのインタビュー・ブースだけが、時にピーンと張り詰めた空気が漂っていたのを記憶している。年に一度のお祭りの席で、他の選手のそれが終始、笑いと喜びにあふれていたとは対照的だった。
 また、メジャーではパワーヒッターをより高く評価する傾向が依然として根強い。
 他には通算本塁打歴代4位、打点3位のアレックス・トロリゲス(ヤンキース)、3割、100打点を10回記録し、「ビッグ・パピ」としてファンの多かったデビット・オルティーズ(レッドソックス)、スイッチヒッターとして初の300本塁打、300盗塁を達成したカルロス・ベルトラン(アストロズ)らが22年以降、次々と殿堂入りの資格を得る(ユニホームを脱いでから5年目)。
 だが、そのうち、ロドリゲスは薬物使用で13年から14年に出場停止処分。ベルトランはアストロズの主力だった2017年に、チームぐるみでスパイ野球を行っていたことが2020年になって発覚。ともにイメージを悪くしている。
 資格取得1年目に殿堂入りをしたい、というイチローの希望は叶えられそうだが、果たして満票となるかどうか。ちなみにイチローが資格を得るのは25年である。(了)