第25回「行け柳田」(島田健=日本経済)

◎熱烈な巨人ファン

▽元はジャズが好き

 作者の矢野顕子といえば、ちょっと変わった歌詞、メロディーだが、何となくうたってしまうという唄が多い。イエローマジックオーケストラ(YMO)との共演もあり、電子楽器のイメージもあるが、何でもこなせるほどの高い音楽性を持っていると言われる。いわば天才だが、音楽界にデビューするきっかけは、ジャズだった。ピアノでジャズを演奏したいと青山学院高校の軽音楽部に入ったが、同部ではジャズをあまりやらなかったため、ジャズクラブの青山ロブロイで演奏しているうちに、業界人の注目を浴びることになった。

▽春咲小紅より4年前

 一般に矢野の名前が知られたのは、やはり1981年(昭和56年)にカネボウ化粧品のCMに起用された「春咲小紅」だろう。翌年には坂本龍一と結婚(06年離婚)し、さらに音楽活動を盛んに行っていくが、この唄の発表は77年。シングルCDとしては「いろはにこんぺいとう」に続く2枚目だった。ジャパンポップの歌手が、2枚目で選手の応援歌を出すとはまさに熱烈な野球(巨人)ファンである。

▽巨人史上最強の5番打者

 77年の巨人・柳田真宏といえば、21本塁打、打率3割4分と最盛期。5番に恵まれなかった巨人史上最強ともいわれた。マムシとあだ名された柳田ばかり褒めた唄と思ったら少し違った。「さぁさそろそろ始まる時間」「コップ片手にラジオの前へ」とまるで野球ファンのオヤジを描写したような出だしは、ひとまず置くとして、リフレインは「行け柳田 行け柳田 行け柳田 行け長嶋 行けよみうりジャイアンツ」と柳田メイン。だが、他の歌詞は「王貞治打てば打てば」「ダッグアウトは火の玉に」、一番から八番まで選手名を並べるなど、柳田個人以上に巨人愛に満ち満ちている。

▽やっぱりスポーツ好き

 14年以降は「柳田」といえばソフトバンクの柳田悠岐(やなぎたゆうき)が代名詞になってしまったが、真宏選手としては自分の歌があることは嬉しい限りだろう。矢野自身は、昔の歌を良い唄としながら、「ギータ」(柳田悠岐)にも結構関心をみせている。20年初場所も良くテレビ観戦しているらしく「さっき見た炎鵬と遠藤の取り組み。良かったなあ」「様々な力士がいて、その事が大相撲を面白くしているってわかる」とツイート。音楽活動も益々盛んのようだから、野球のみならずスポーツの唄をもっと作ってほしい。(了)