「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤彰雄=スポーツニツポン)

◎監督の観察眼に驚く
映画関係者や一般の映画ファンが集まった、私もンバーに加わっている「映画研修会」でのある日の出来事-。
元松竹の映画監督として腕を振るったM氏と話す機会を持ちました。東大文学部で学び、学生時代は柔道の選手でもあった“文武両道”のM氏は、青春ものを多く手がけ、日ごろ、私たちとも気さくに会話を交わしてくれる良き先輩です。
映画のつくり方や観(み)方など話が弾む中でM氏が言いました。
「サトーさん、歯が悪いね」
エッ? 歯ですか? 確かに私の歯は、両親が弱かったせいか、2人の欠点を受け継ぎ、若い頃から悩みの種でした。が、それにしてもなぜ?
 M氏が続けます。
「左の下奥歯だね」
エッエッ? 左の下奥歯は部分入れ歯で補修していますが、なぜ、どうして分かるの? M氏はニヤニヤ笑いながらこう言いました。

▽ひと目で見抜く力
「監督って商売は、それくらいのことが出来なければ務まらないんですよ。その日が始まる。俳優さんたちが集まってくる。ひと目見てコンディションを知る。そしてそれぞれのコンディションに合った指示を与える。それが監督の役目です」
私の場合は、弱点をカバーしているように見える(私にその意識はまったくありませんが…)顔や体のわずかな歪みから察知したとのことでした。
 そんなことがあり…2月11日に虚血性心不全で死去した野村克也氏(享年84)が生前のプロ野球・ヤクルト監督時代、愛弟子として濃密な師弟関係を築いた古田敦也氏とかつて行った対談がテレビの情報番組で追悼放送されました。
ここで野村氏が話した言葉にM氏をダブらせ、私は、ウ~ン、同じか、とうなってしまったのです。
野村氏はこう語っています。
「(選手を)間違った道に進ませちゃいかんからね。監督にはまず、見る目がなくちゃいかん」

▽人を育てる力
つまり、野村氏は、投げるとか打つとか、そういう分野の指導はコーチがやればいいわけで、監督の仕事というのは、選手を見て(知って)進むべき道に導くことが大きいと思う、ということを愛弟子に吐露しているのです。
野村氏の有名な言葉に、
「金を残すは三流。名を残すは二流。人を残すは一流」
というのがあります。凄い言葉ですね。やはり、野村流は“人を育てる”ということなのでしょうね。
代名詞にもなっていた“ボヤき”についても語っていました。
「理想があり、現実があり、その間に“ボヤき”がある。ボヤくということは理想を高く持つことなんだ」
なるほど…というか“ボヤき”の立ち位置は、深みがあって面白いですね。
映画監督のM氏は、
「面白い映画をつくるためには自由が必要です。表現上の自由。経済上の自由。一番欲しいのは、つくる人々が作品の中にのめり込んでいけるような作品しかつくらない自由ですね」
と熱く語りました。
この自由を得るためには、相当な“ボヤき”が入って来そうですが、なにやら“野村イズム”の根底に流れるものの中にも、そんな自由を求めているような気がしました。(了)