第26回 オールザウェイ(島田健=日本経済)
◎弱体チームの祈り
▽超人気の伝統球団
シカゴ・カブスといえば1871年創設の米大リーグ(MLB)でもっとも古い球団の一つ。1916年完成のリグレー・フィールドはボストンのフェンウェイ球場に次いで歴史がある。
同球場は外野のフェンスを覆うツタが美しく、スコアボードも手動、ナイターもいまだ制限があるなど、まさに古き良きグラウンドそのものだ。地元の人気は絶大で、同じシカゴに本拠地を置くホワイトソックスを常に上回る観客動員数を誇っている。
▽生粋のカブスファン
ロックバンド、パールジャムのボーカリスト、エディ・ヴェダー(64年生まれ)は米国西海岸へ移住したが、育ったのはシカゴ郊外のエバンストン。当然、カブス一途である。本拠地で、7回恒例の「テイク・ミー・アウト・トゥ・ザ・ボールゲーム」を何度も演奏しているし、98年の独立記念日には始球式でボールを投げ入れた。
MLBのスプリングキャンプを体験できる「ファンタジーキャンプ」にも何度か参加し、そこでミスターカブといわれた、アーニー・バンクス(31年生まれ)から「チームのために唄を作ってくれ」と頼まれた。
▽ビリー・ゴートの呪い
カブスは16年にワールドシリーズを制したが、何と108年ぶりだった。46年から15年まではリーグ優勝もない、長期低迷軍団だった。45年のワールドシリーズで、ヤギ連れの客を入場させなかったことで受けた呪いのせいとも言われたものだ。
ヴェダーがこの唄を作った07年も地区優勝はしたものの、ディビジョンシリーズは3連敗。だからフォークソング風に渋く歌われる歌詞には球場や、青いピンストライプのユニホームなどチームへの愛着をアピールする一方、我々は晴れの日のファンでなく、悪天候のファンである」と自虐的な部分もある。そしてリフレインは「Someday we’ll go all the way」である。
▽バンクスは優勝を見られず
ジャズではリー・モーガン(トランペット)の演奏でも有名な「オールザウェイ」。道中ずっと、とか、わざわざなどの意味があるが、スポーツ関係で「go」がつくと「最後まで行く」、つまり優勝すると言う意味になる。だが、それに「必ず」でなく「いつか」がつくところが弱体チームらしいところだ。
唄をリクエストしたバンクスはチーム初の黒人選手として、512本塁打、リーグMVP2回受賞の名選手だが、当然ながらワールドシリーズには出場していない。そして15年1月、108年振りの快挙を見ずに亡くなった。検索は「All the way Eddie Vedder」(了)