第30回「ザ・グレイテスト」-(島田健=日本経済)

◎野球少年の心の持ち方
▽カントリーの大御所
 カントリー・ミュージックの大御所、ケニー・ロジャースが2020(令和2)年3月20日に81歳で亡くなった。78年に出したアルバム、ザ・ギャンブラーは総計500万枚売れた。
ライオネル・リッチー提供の「レイデイ」は80年にカントリーのみならず全米ポップチャートの1位に輝いた。
カントリーといえば白人音楽、西部劇、ローハイドなどというイメージがあるが、この唄は幼い男子の野球の練習風景を描いたもの。あまりにピュアでジャンルを疑ったが、作詞作曲はソングライターのドン・シュリッツ。名曲、ザ・ギャンブラーと同じだった。
▽フィールドにただ一人
 野球帽をかぶった小さな男の子がフィールドに立ち、「僕は全選手の中で一番偉大なんだ」と言いながら、バットを肩にボールを上に放り投げる。落ちてくるボールに対し、思い切りバットを振り回す。だが、ボールはグラウンドにポトリ。
そんなことにはへこたれないと、今度は歯を噛み締めてもう一回試みる。しかし、結果は同じだ。3度目は「僕がグレイテスト、試合はここからが勝負だ」と言いながら、全力で振り回す。
▽結果は三振だが
 予想通り、3回目も空振り。三振である。「夕飯の時間よ」とママが呼んだところで少年はバットとボールを持って帰り道につくが、いうことがしゃれている。
「僕が一番だというのは事実。あれだけうまく投げられるかどうかは分からないけれど」
つまり、バッターとしてはグレイテストとは言えないけれど、三振させた投手としては一番だというのだ。ポジティブ志向というか、微笑ましい限りである。
▽カントリー嫌いも絶賛
 ロジャースが亡くなった翌日、野球ファンが追悼文をネットに寄せた。
「私はカントリーアンドウエスタンが好きではないが、この曲は小さな宝物の中の一つである」
99年の発表当時、ビルボードのシングルカントリー部門で26位に入った。ライトで8番の「ライパチ君」のナイスキャッチを描いたピーター、ポール&メアリーの「ライトフィールド」など、大人が唄う少年野球の唄が持てはやされるのは、野球が米国に深く根付いている一つの証だろう。
検索は「The greatest Kenny Rogers」(了)