「大リーグ ヨコから目線」(30)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)
◎ポジションから見る日米監督考
▽投手出身対捕手出身
2020年6月19日に開幕したプロ野球に続き、大リーグも7月23日、24日にようやく公式戦が始まる。通常の162試合が今年は60試合。文字通り短期決戦となる。
長期戦なら戦力、選手層の厚さが大きくモノをいうが、短期決戦では勢いや運不運、あるいは監督の采配の妙が成績を左右する余地が生まれる。そんな中、日米両球界の監督には大きな差異がある。
それは出身ポジションである。
プロ野球12球団の監督の現役時代のポジションは投手4人(ソフトバンク工藤、中日与田、広島佐々岡、ヤクルト高津)、捕手1人(阪神矢野)、内野手5人(西武辻、楽天三木、ロッテ井口、オリックス西村、巨人原)、外野手2人(日ハム栗山、DeNAラミレス)。
一方、大リーグ30球団では捕手11人(内野を守った経験のある監督1人を含む)、内野手9人、外野手5人、内、外野手2人、特定のポジションなしのユーテリティー1人、プロのプレーなし1人。そして投手はたった1人(ロッキーズのバド・ブラッグ)である。
捕手出身監督で目につくのは現役時代の実績の有無だ。エンゼルスのジョー・マドン、オリオールズのブランドン・ハイド、ブレーブスのブライアン・スニッカー、パイレーツのデレク・シェルトンの4監督は選手としてメジャーでプレーしたことがない。
他の監督もこれといった成績は残していない。
メジャーで1000試合以上の出場経験のあるのはヤンキースで活躍したジョー・ジラルディ(フィリーズ)、4度のゴールデングラブ賞受賞のマイク・マシーニー(ロイヤルズ)の2人だけだ。それでもタイトルとはまったくの無縁だった。
▽データ野球と人の扱い
大リーグで捕手出身監督が評価されるのはいくつか理由があると思う。
ひとつは野球の緻密化だ。最近はほとんどの球団がコンピューターを駆使して膨大な情報を集め、そのビッグデータ野球を生かす野球を重視している。中には数学者やIT専門家、物理学者をフロント入りさせている球団もあるほどだ。
もともとキャッチャーは集めたデータから弱点を分析して相手打者を攻略する。またそのデータを使って新たな戦法を生み出したり、采配を揮ったりするのに適している。
9回の満塁のピンチに内野手を5人にして併殺狙いのシフトを多用したのはマドン監督だったし、オープナーを駆使して昨年、ア・リーグ東地区でチームを地区シリーズに導いたのはレイズのケビン・キャッシュ監督(捕手として8年プレー)だった。
また捕手には投手を気持ちよく働かせる女房役の役割もある。マウンド上でカッカしたり、落ち込んだりしている投手を励ましたり、ハッパをかけたりするのである。そのためには投手の心理や気持ちを理解しないといけない。
アメリカンフットボールやバスケットボールの監督は「ヘッドコーチ」と呼ばれるが、野球は「マネジャー」である。
コーチは技術や戦術を教えるが、マネジャーはそれだけでなく人も扱う。選手の気持ちを巧みにコントロールし、働かせるのも監督の大きな仕事なのである。そんな役回りには捕手出身者が的確と判断されているのだろう。
投手としてタイトルを取り、一時代を築いた投手出身の佐々岡、高津両新監督がどんな成績を残すか。現役時代は無名に等しかったメジャーの捕手出身監督がどうチームを導くか。大いに楽しみである。(了)