「野球とともにスポーツの内と外」-(佐藤 彰雄=スポーツニツポン)

◎“スピードスター”たちの魅力
 プロ野球の醍醐味の一つにスペシャリストの存在があります。
 もっともMLBエンゼルスの大谷翔平投手のように、投げる、打つ、守る、さらに走る、と他人がマネのできないオールラウンダーに接してしまうと言葉を失ってしまいますが、これもまた、広義にとらえれば“スーパー・スペシャリスト”と言えるでしょうか。
 ここでは一つのことに秀でた選手、ダイヤモンドの華ともいえる「足(盗塁)」のスペシャリストに焦点を当ててみたいと思います。
なぜなら今季、西武のドラフト4位ルーキーの23歳・若林楽人外野手が、西武の先輩・源田壮亮内野手、ソフトバンク・周東佑京内野手らのスピードスターを差し置いて輝きを放っているからです。
5月22日の日本ハム戦、若林は2安打3盗塁で両リーグ最速の計20盗塁(46試合)をマーク。周囲はパ・リーグ史上初のルーキーで盗塁王なるか! とにわかに騒ぎ始めているのです。ちなみに若林は50メートル5秒8の俊足-。
▽ルーキー若林の快挙なるか
 さて…かつてプロ野球界をにぎわせた「足のスペシャリスト」といえば代表格が阪急の福本豊外野手でしょう。盗塁のシーズン日本記録を見ると、福本が1972年106盗塁、1973年95盗塁、1974年94盗塁…といずれもトップの座を占め、他の追随を許していません。
 話題の大きさでは飯島秀雄でした。1964年東京、1968年メキシコシティー両五輪の陸上競技・短距離選手。100メートルの元日本記録保持者。ロケットスタートで鳴らし引退後、ロッテが1968年秋のドラフト4位指名で入団させています。
陸上競技からプロ野球選手への転向…それもアッと驚く代走専門選手。これを足のスぺシャリストと呼ばずして何と呼ぼうか? ロッテの本拠地・東京スタジアムは飯島の足をお目当てににぎわいました。
ちなみにデータによると飯島は在籍3年間で117試合に出場、打席数は「0」。まさに“足だけ”でした。
 ところで若林は“甲斐キャノン”で知られる強肩のソフトバンク・甲斐拓也捕手からも盗塁を奪っています。その秘訣は何なのでしょう。それはスタート後、初速からトップスピードに至るまでの速さにあると言われます。
▽卓越した盗みの技術
 例えば第一人者の周東の場合-。
 一塁に出塁。投手は当然、牽制を重ねて警戒を怠りません。そんな中、スチールへの第一歩は、一塁に近い「左足の蹴り」にあり、そのとき周東の頭の中には、3歩目でトップスピードに乗せるイメージをつくり上げているのだそうです。これは速いですね。
周東の50メートルは5秒7。もっとも大事な成功の仕上げはスライディングの技術。周東は野手の動きを見て滑り込む足を、左足にするか右足にするか、自在に代えるのだそうです。
 観客を魅了するスピードスターへの道は、一塁をスタートするタイミングと二塁へスライディングする際の一瞬のスキ。こうしたシビれるプレーこそ、観る側を興奮させ、プロ側にしてみれば面目躍如となります。(了)