第46回 ハート-(島田 健=日本経済)

◎何でもハートが大事
▽ヒット•ミュージカル
ファウスト伝説を元にした、ブロードウェイのミュージカル「くたばれヤンキース」、英語では「Damn Yankees」。1955(昭和30)年初演で、たちまちヒットし、映画にもなり、日本でも85年に江本孟紀さん、07年には大澄賢也さんなどの出演で上演された。
ワシントン•セネタースの熱烈なファン、中年で不動産屋のジョー•ボイドはある日、負け続けのチームに対し「長打力のある若い選手がいればなあ」と嘆いた。それを耳にしたアップルゲイト(悪魔)は、若くてパワーのあるジョー•ハーディーというスラッガーに変身させてやると持ちかけた。
▽監督のハッパ
話は紆余曲折を経て愛の勝利に終わるわけだが、この唄は弱小球団の選手に「君たちにはハートがある」とヴァンブーレン監督が訴えるシーンで唄われる。
「君たちはすでにハートを持っている 君たちに何より必要なのはハートなんだ 賭け屋が君たちが勝つことはないといったり ニヤニヤ笑いが始まった時でさえ 君たちには希望がある 座り込んでふさいでいる場合じゃない 見た目の半分ほども悪くはないんだから 次の年にかけて希望を持つんだ」
▽チームの弱体ぶり
40、50年代のセネタースは本当に弱かった。伝説の名投手、ウォルター•ジョンソンを擁して24年にはワールドチャンピオンになったが、その後は1回リーグ優勝があるだけ。
ヤンキースが46年から54年の9年間に5連続を含む6回ワールドシリーズを制したのに比べ、その9年間は4位が最高で最低は最下位の8位。同じアメリカンリーグのヤンキースにはとことんやられていた。
「くたばれヤンキース」と言いたくなる気持ちは良くわかる。
▽結局は身売り
「ハート」が唄われるシーンで選手も唄い返す。
「すごいスラッガーがいない すごい剛腕もいない 優れた球団でもない 何を持っているかといえば ハートだけだ」
唄の通り、チームは強化されないうちに61年、ミネソタに身売りされた。今はツインズである。
ミュージカルの方はハッピーエンドでヤンキースばかりか、ワールドシリーズまで勝ってしまう。セネタースファンの夢は舞台でかなえられた。
検索は「Heart Damn Yankees」(了)