「大リーグ見聞録」(53)-(荻野 通久=日刊ゲンダイ)

◎メジャーに二刀流、女性版大谷翔平誕生?
▽女性のユニホーム組続々
 2022年5月1日(現地)は大リーグにとって歴史的な日になった。MLBの連携する独立リーグ(10チーム)スタッテンアイランド・フリーオークス所属のケルシー・ウイットモア(23歳、170センチ、64キロ)がガストニア・ハニーハンター戦で女性として「9番・右翼」で初めて先発出場したのだ。MLBと連携しているリーグのチームで、女性が試合に出たのは1994年のハワイのウインターリーグの2人以来。その2人は代打での出場だった。
 ウイットモアは2打数無安打、1死球。早速、MLBのHPでも取り上げられ、テレビにも出演した。彼女は大学ではソフトボールで活躍。野球の米国ナショナルチーム代表にも選出されている。大学、代表チームでは投手。代表メンバーだった2014から2019年は投手として26回3分の1を投げ、防御率1.35。打者としては打率3割4分8厘の数字を残す。二刀流である。
「オオタニさんはグレートプレイヤー。私も二刀流を続けたい」
 とウイットモア。
 女性の台頭といえば、4月12日にはジャイアンツ対パドレス戦で、初めて女性コーチがメジャーリーグの試合でグラウンドに立った。ジャイアンツのアシスタントコーチのマリッサ・ナッケン(31)で外野守備担当。3回裏にリチャードソン一塁ベースコーチが塁審への暴言で退場。代役を務めた。その1週間前にはヤンキースの1Aタンパでレイチェル・バルコックが女性として初めてチームの指揮を執った。
▽世界一リングに「選手の奥さん?」
 かつてはメジャーリーグでは女性が球団フロント幹部になることすらほとんどなかった。世界一になったチームのある女性フロント幹部はワールドシリーズ優勝の指輪をしていたところ、「選手の奥さんですか?」と聞かれたそうだ。
 それが2021年のシーズンオフにマイアミ・マーリンズで女性初のGMが誕生。そしてグラウンドでも女性が活躍しだしたのである。
 3人に共通するのは大学でソフトボールの選手だったこと。またナッケンは大学でスポーツ経営、バルコックは運動科学を専攻。それを生かしてメジャー球団のフロント入り。色々な分野を担当し、また数球団を渡り歩いてキャリアを積み、現在の地位を獲得している。大リーグでは采配や技術だけでなく、指導者になるにはさまざまアプローチがあり、多様な能力が求められている。
 プロ野球ではどうか。
2009年に発足した女子プロ野球リーグはコロナの影響などもあり、22年12月に無期限活動停止。西武、阪神、巨人が傘下に女子プロチームを抱えるが、プロ野球のレベルとはほど遠い。大学野球では2012年に慶大野球部に女子選手が登録されたが、途中で退部している。当時、江藤省三監督に取材したがこう話していた。
「(女子選手は)やはりケガが心配。打球ひとつ取ってもスピードが違うから」
12球団のフロントで活躍する女性もまだまだ少ない。
「野球で誰もが多くの可能性があることがわかった」
 とナッケンは喜びを語ったが、プロ野球でも同じセリフが聞かれる日はいつになるのだろうか。(了)