第54回 ナイトゲーム(島田 健=日本経済)

◎悲しい唄?
▽サイモンのソロ
「ミセス・ロビンソン」で一世を風靡したサイモン&ガーファンクルだが、「明日に架ける橋」以降はデュオを解消した。ポール・サイモンは活発にソロ活動を始め1975(昭和50)年には名盤、「時の流れに」をリリースした。野球好きなサイモンが5曲目に選んだのがこの曲だ。唄は題名が示す通り、野球用語満載の唄だが、歌詞が悲し過ぎて、何かの比喩でないかと、話題にされることが多い。
▽投手がマウンドで死去
意訳してみると「8回裏二死 スコアはタイ そこで投手が死んだ」「そして彼らは投手のスパイクをピッチャーズマウンドに置き そして彼のユニホームは裂かれ そして彼の背番号はグラウンドに残された」「そしてその夜は寒さを増し 月よりも寒く 星々は骨の如く白く 古びた球場は 人々の歓声よりも古く 球団よりも歳降りている」「3人がアウトになり そしてシーズンは負けに終わる そして冬の霜の上に 防水シートが広げられた」
▽意味不明?
いきなり投手が死んでしまう訳だが、原因も経過も不明で、試合はどうなったのか、他の選手や観客はどう反応したのか全く不明。スパイクがマウンドに置かれたのは何かのセレモニーなのか、背番号が残されたのはチームの欠番になったのか、なぜユニホームが割かれたのか。病院で手術するためだったのか。そしていきなりシーズンが終わってしまう。ツッコミどころ満載の歌詞である。
▽何かの比喩か
そこで考えられるのは、サイモンが失った人への哀歌ではないかということだが、悲しみの度合いが測り難い歌詞で、違うような気もする。ある投手の失調でチームが傾いてペナントを失うという解釈は浅すぎるだろう。ただ、ギターとベースが奏でる伴奏も暗く、サイモンのトーンも低い。使われる言葉もダウン、ボトム、死去、残された、寒い、骨、冬とテンションの上がらないものが連発されている。やはり追悼の意味が基本だとは思わせる。
▽ハーモニカ
サイモンの唄を一曲ずつ分析しているコラム、「Every single Paul Simon」によるとこの曲は彼の作った唄の中で一番悲しいものかもしれないそうだ。だが、風変わりでばかばかしい部分もあるという。何が何を象徴しているか想像するのはチョピリ楽しそうだ。さて、やや単調な曲にはおまけがある。ジャンーバプティスト・フレデリク・イジドール、男爵シールマンス、通称「トゥーツ・シールマンス」のハーモニカの間奏である。ジャズでも名声を得た名手の切々とした調べも楽しみの一つである。
検索は「Night game Paul Simon」(了)