「野球とともにスポーツの内と外」(38)-(佐藤 彰雄=スポーツニッポン)

◎連覇は難しいことなのに…
連覇の難しさ-。
 王座を守ることは王座を奪うことより難しいと言われます。例えばプロボクシングの場合。元世界王者の浜田剛史氏(帝拳代表)は、自身の体験を踏まえ「王者となった喜びは一瞬。感激から一夜明けたその日朝から世界中の刺客への備えが始まります」と言います。
 チャンピオンとなって環境も変わります。祝福され、もてはやされ、交際も増える中、チャレンジャーのときにあった「攻める気持ち」が次第に薄れ「守りの気持ち」が上回ることが王座防衛を難しくさせるのですね。
 これは各種スポーツに共通することでしょう。だから頂点に立つものは常に「チャレンジャーの気持ちを忘れずに」を口にします。そしてそれはまた、口で言うほど簡単なことではないのですね。
▽刺客勢の力不足
 そんなことを考えながら、今年のプロ野球を観(み)ています。だからセ・リークのヤクルト、連覇に向けた快進撃は“たいしたものだな”などと思います。
 2020年最下位から高津臣吾監督2年目の前年(2021年)、2015年以来、6年ぶり8度目の優勝(日本シリーズも)を遂げました。ちなみに過去7度の優勝中、野村克也監督時代の1992年、1993年に日本シリーズ優勝を含む連覇を果たしています。
 その快挙以来となる2度目の連覇が近づいたかな? と思わせたのが、交流戦18戦をパ・リーグ全6球団に勝ち越す14勝4敗の圧勝で乗り切ったことでした。前年の優勝が、投手出身の高津監督らしく“継投の妙”によるものと称賛されました。引き続き今季も、さらなる投手力の向上、打線の充実が揺るぎない地位、快進撃を支えています。6月27日現在、後続の巨人に11ゲーム差をつけての首位-。
▽簡単にヤクルトの連覇を許すのか
 冒頭に記した「連覇の難しさ」を吹き飛ばすヤクルトの活躍は、もちろん、投打かみ合ったヤクルトの盤石の強さもありますが、その一方、刺客勢の情けなさが浮き彫りにされます。今季、王者ヤクルトへの打倒一番手は阪神と踏んでいましたが、多くの人たちをガックリとさせた開幕早々の不甲斐なさが王者を楽にさせたと言えないでしょうか。
 ヤクルトは三原修監督時代に優勝こそなかったものの“マジック”の言葉を生んで相手チームを困惑させたことは周知のことです。刺客が王者の戦い、つまり「守りの戦い」をしていては、下剋上が完遂されるわけがありません。ヤクルトが最下位から日本一となった下剋上を上回る下剋上を刺客勢には期待したいものですね。
 この時期、ここでヤクルトの一人旅を実現させてしまったら…せっかくの球界活性化に水を差しかねないことを巨人、阪神など刺客勢はどう受け止めることでしょうか。(了)