第62回「ザ・ボール・ゲーム」(島田 健=日本経済)

◎バイブルと融合
▽ゴスペル
米国のプロテスタント教会の音楽の一つであるゴスペル。カソリック系の聖歌とは違ってリズミックでエネルギッシュであるが、キリスト教普及のために野球をも活用しているとは知らなかった。 
1952(昭和27)年にゴスペル歌手兼ソングライターのウィノナ・カーがリリースしたこの唄は「聖書と野球の美しい融合」とも言われている。以前、大スター、ナット・キング・コールが唄った「世界最初の野球試合」で、いかに米国民が聖書に深く関わっているか驚いたと書いたが、それは62年発売だった。その根源にはこの唄があったのかもしれない。
▽人生は野球の試合
人生や恋を野球に例える曲はたくさんあるが、この唄は比喩ではなく、そのものズバリと聖書と野球を直結している。
「人生は野球の試合 毎日プレーしているし 誰でも参加できる」「そうイエス様はホームベースで あなたが来るのを待っている」「第1段階は誘惑 知っている通り二塁ベースは罪 第3段階は苦難 全てをクリアすればイエス様のところに行ける」「そこでヨハネが9回に登場する そして試合が終わろうとする頃 神はヨハネに予言を与える そして彼は私たちが既に勝ったと知るのだ」
▽根強い人気
日本で言えば「抹香臭い」唄だが、カー個人のゴスペルとしては最高にして唯一のヒットとなった。そして現代でも忘れられていないのが凄い。タイ・カッブの伝記映画「カッブ」(94年)や黒人初の大リーガーとされるジャッキー・ロビンソンの苦難を描いた映画「42」(13年)で流れているのだ。「42」では最終場面が終わって、これまでのカットが再現されるエンディングで朗々と歌声が響く。米国の野球好きには、野球の唄のバイブルなのだろう。
▽フェアじゃないと
ラストは「そうイエス様はホームベースに立っています そこであなた方を待っています そう人生は野球そのもの でもあなた方はフェアにプレーしなければいけない」。やっぱり教訓的だ。
検索は「The ball game Winona Carr」(了)