「菊とペン」(40)-(菊地 順一=デイリースポーツ)

◎絶滅危惧種よ、頑張れ
私の家での楽しみとくれば、これはもうプロ野球中継の観戦に尽きる。仕事ではなく趣味である。その意味で試合のない月曜日は本当につまらない。
まあ、そこで以前から気になっていたのはスイッチヒッター(両打ち)の選手を見ることが年々少なくなってきたことだ。
現在、セとパの両リーグ合わせて登録は10人もいないのではないか。巨人・若林晃弘、中日・加藤翔平、西武・金子侑司ら…レギュラークラスはいない。
聞くところによると、いまや、球界の「絶滅危惧種」だそうだ。
 ご存じの通り、右・左の両方で打てる選手ははどの投手に対しても優位に立てる。特に右打ちが左打ちもマスターすると一塁が一歩半くらい近くなる。出塁率が高くなる。
 日本人スイッチの嚆矢は言わずと知れた柴田勲さんだ。2000本安打を達成したレジェンドだ。柴田さんの影響を受けて、スイッチは70年代から徐々に増え始め、高橋慶彦を始め90年代前半に最盛期を迎えた。
もっと挑戦する選手が出てきてもいいと思うのだが、現在は打撃センスが良くて足が速かったら、親や指導者は子供(少年野球)の頃から左打ちを勧めるし、変えてしまうことが多いとか。野球は左打者が有利、圧倒的に左投手より右投手が多い。
 94年にイチローが大ブレークし、さらに松井秀喜が大活躍した。2人とも右投げ左打ちの選手だ。このあたりから出現した実績のある左の好打者は右打ちから転向している。金本知憲、前田智徳、福留孝介、阿部慎之助、高橋由伸ら。最近では大谷翔平、吉田正尚もそうだ。村上宗隆、佐藤輝明も。いまは「右投げ左打ち」登録の選手がやたら多い。
スイッチに挑戦すると2倍はスイングと打ち込みをする必要がある。現在は行き過ぎた練習や特訓は問題になるケースがある。
 ならば左打ちを徹底的に練習した方がいい。左打者でも左投手を苦にしない選手はたくさんいる。「二兎追う者は一兎も得ず」。モノになるか分からない両打よりも左打者一筋で勝負する。これが定着していると推察する。
 それにいまの世の中「思い込んだら命がけ」「試練の道を進む」「初志貫徹」「死に物狂いでやり抜く」という考えよりも、自分に合わない、これ以上の上達は望めない。こう判断したら、さっさと見切りを付ける。自分の利点・長所を伸ばすために合理的に考える。
 親・指導者・監督は時代の流れに敏感だ。今後も右投げ左打ちの選手は増えていくのではないか。時代の流れを反映している。松井稼頭央のような選手が出てくれば、また違ってくると思うのだが。
 プロ野球観戦を楽しみにしている身とすれば、魅力があるスイッチヒッターの絶滅危惧種化は寂しい限りだ。生き残ってほしいし、挑戦する選手が出てもらいたいと願っている。(了)