「大リーグ ヨコから目線」―(荻野通久=日刊ゲンダイ)
◎アナログは死なず
打撃不振でBクラスに低迷する阪神が甲子園球場のラッキーゾーンを復活させる構想があるという(1991年限りで撤廃)。本塁打84本はリーグトップのDeNA175の半分以下。得点547は広島694と150点近くの差がある(いずれも9月27日現在)。
外野のフェンスを前に出して本塁打と得点を増やそうということだろう。ソフトバンクや楽天も外野フェンスの前に観客席を設けたり、フェンスを前に出したりして、グラウンドを狭くしている。自軍の有利に球場を改造することは珍しくない。
▽井口とスモールベースボール
グラウンドの改造と聞いて以前、アメリカで聞いた話を思い出した。
2005年、井口資仁(現ロッテ監督)がダイエーからシカゴ・ホワイトソックスに移籍した。その時、井口は本拠地のセルラー・フィールドのグラウンドキーパーから一塁線、三塁線のゴロの転がりを徹底的に教えられたそうだ。
ホワイトソックスは前年からオジ―・ギーエン監督が指揮を執り、05年には井口やスコット・ポドセニックなど機動力のある選手を獲得。それまでの長打に頼る野球から投手力を含めた守備力、機動力の「スモールベースボール」に大きく舵を切った。前任者の2003年は43だった犠打が53、盗塁は77から137に増えた。
「スモールベースボール」ではここ一番というときの犠打は試合の行方を左右する。グラウンドキーパーは「(一塁線、三塁線の)ここに転がせば必ずフェアになる」と井口に伝えたかったのだろう。当然、グラウンドキーパーはそのための細工を施していたのは想像に難くない。
2番を任された井口はチーム最多タイの犠打11、チーム3位の盗塁15を記録。リーグ優勝と88年ぶりのワールドシリーズ制覇に貢献した。ギーエン監督をして「今年のMVPは井口。井口ほど野球をしっている選手はいない」と言わしめたほどだ。
▽ボールにさりげなく土
外野フェンスやグラウンドを改造とはずいぶん古めかしいなやり方とも言えるが、日米とも決して珍しいことではない。
1982年、83年と2度の盗塁王に輝いた松本匡史(元巨人、現解説者)が以前、テレビ番組で「甲子園の阪神戦では一塁ベースと二塁ベース付近が湿っていた」と話していた。松本の盗塁を阻止するためだった。
大リーグでもイチローがデビューし、走りまくっていたとき、相手チームが一塁ベースの近くに水を撒いていた。スタートを少しでも送らせる狙いだった。
こんな話も耳にしたことがある。
試合中、内野ゴロで相手打者をアウトに取ると、内野手同士でボールを回し、最後に投手に戻すのは見慣れた光景だ。その時、大リーグ某球団の内野手はそれとなく土の部分にボールを落として、そのまま投手に渡すことがあるそうだ。
なぜか? 落ちたボールには多少にかかわらず土がつく。土がついたまま投げると、ボールは空気の抵抗で不自然な回転する。どんな変化をするかわからないので、打者にとっては打ちにくくなるという。
聞くところによると、投手の要求でそうしたことを行うそうだ。土やドロがピッチングの邪魔になれば、投手が拭えばいいし、支障がなければそのまま投げる。
もちろん、ボールに傷を付けたり、土やドロを付けて投げるのはルールに反するが、審判も含め誰も気がつかないだろう。
メジャーリーグは今、ビッグデータ全盛。ITを駆使して相手チームや獲得したい選手の情報を徹底収集、分析する。各球団ともスカウトを減らし、IT技術者を増やす傾向にある。そんな時代でもアナログな戦い方、考え方はまだまだ健在のようだ。それがメジャーリーグの面白さでもあろう。(了)