「大リーグ ヨコから目線」―(荻野通久=日刊ゲンダイ)

◎監督の日米比較

大リーグもプロ野球もシーズンオフに入り、人事の季節だ。今年もプロ野球では4球団で新監督が就任した。巨人・原、中日・与田の両監督はタイトルも取った、生え抜きのスター選手。阪神・矢野、楽天・平石の2人は現役時代には脇役で、コーチ、二軍監督などを経験した叩き上げだ。
 今季限りで辞任した巨人、阪神の高橋、金本の両人はコーチの経験もなく、現役時代の看板だけで監督になった。経験不足を危惧された通り、3年間で一度も優勝することなくその座を退いた。
大リーグではスター選手だったからといって、即、監督になることはまずない。選手と指導者はまったく別の能力と考えられているからだ。

▽カージナルスに見る監督の存在

2009年にセントルイスでのオールスターの取材に行ったときだ。日米の監督の話をした。
 当時は名将ト二―・ラルーサ(歴代3位の通算2728勝、ワールドシリーズ3回制覇)がカージナルスの指揮を執っていた。現役時代はわずか6年、132試合しか出場していない選手だった。
 逆にカージナルスで3度MVPに3度輝き、通算安打は歴代4位の3630本。22年の現役を同球団で全うしたビッグネームのスタン・ミュージアル(1920年~2013年)は引退後、一度もユニホームを着なかった。そのことをフロントに聞くと、こんな答えが返ってきた。
 「ミスター・ミュージアルも指導者に関心がなかったわけではない。ある年、キャンプの視察に来たことがある。マイナーの練習で、朝から晩までドロだらけになって選手を指導するコーチの姿を見て、自分には無理だ、と思ったそうだ」
 ミュージアルは球団でフロント入りした。
 メジャーリーグで功なり名を遂げた選手なら、現役時代に一生食うに困らないカネを稼ぐ。年金制度も充実している。マイナーチームで一からコーチ、監督の勉強をしても、メジャーリーグでそのポストにつける保証はない。仮につけても成功するか分からない。情熱はあっても、まずそんなこんなで躊躇する気持ちになるのかも知れない。
 

▽「長嶋巨人」はメジャーにはない?

マスコミやファンの考えも違う。
 日本のスポーツマスコミはよく「長嶋巨人」とか「野村ヤクルト」と表現する。それを当然視するファンも少なくない。選手よりも監督が主役扱いされる。どんな名将が率いても、大リーグではありえない。試合の主役はあくまで選手だからだ。
 以前、ロッテのバレンタイン監督がこんなことを話していた。
 「強いチームを作るにはどうしたらいいかって?それはまずいい選手を集めることだよ」
 バレンタイン監督はメジャーでレンジャース、メッツ、レッドソックスを率いた。その経験豊富な指揮官をもってしても野球の主役は選手なのである。
 もちろん、アメリカでも名選手が監督になるケースがあるが、それは少数派。大谷が所属するエンゼルスのオースマス新監督も現役時代は地味な頭脳派捕手だったが、WBCイスラエル監督(2013年)を経て、タイガースを就任1年目にア・リーグ中地区優勝に導いている(2014年)。
 もっとも、そんな大リーグの監督像もここにきて変わりつつあるようだ。
 ヤンキースのブーン監督(45)、ブルワーズのカウンシル監督(48)はともにコーチ、監督のキャリアはゼロだが、就任1年目の今年、ともにチームをプレーオフに駒を進めた。
メジャーは今やビッグデータ全盛時代。あらゆるデータを収集、分析、駆使してチームを勝利に導く。ITやコンピューターの役割がより重視されている。経験に基づいた監督の采配や独自のカンは、かつてほど重要視されなくなっているのかも知れない。(了)