◎おい、ここ、ポイントだぞ-(財徳健治=東京)

駆け出しの頃、試合中に先輩記者からよくこんな言葉を掛けられた。「おい、ここ、ポイントだぞ」「ここもポイントだぞ」。あそこもここも。1試合でいったい何十の指摘があったことやら…。
 手練れのその記者は紙面で「ワンポイント」というコラムを担当していて、試合を左右するような場面を技術面や心理面を細かく分析して書いていた。隣に座る私はそのたびに「えっ、ここが? 何でだ」と不安をあおられたものだ。そうやって新米をからかいながら、自分は記事にするべきワンポイントを探していたのだった。
 時にそれは先発投手の初球にまで及んだ。2球目は、3球目は。どう攻めて、どう打ち取るのか。1球ごとが次につながる。投球の組み立てを次打者が見ている。同じように攻めるのか、変化をつけるのか。それをまた次の打者が目を凝らしている。そうとなれば、なるほど初球だってポイントになってくる。
 「伏線なんだよ」。ポイント攻めにようやく慣れたある時、先輩記者がぽつりと。1打席目の結果を見て2打席目に生かす。そのために伏線を張っているのだという。むろん打者も同様、守備者だって。投げて、打って、走って、捕って。単純に見えるプレーの裏にはいくつもの伏線が張り巡らされている。
 野球に限らず、すべてのスポーツで次のプレーにつなげるための伏線はある。ポイント捜しをしながら観戦すれば楽しみは増え、見巧者になること請け合いだ。
 「おい、ここ、ポイントだぞ」。
(了)