第13回 NとLの野球帽(島田健=日本経済)

◎黒い霧事件を思い出させる意味深な曲

▽チャゲの名曲

2019年現在、「CHAGE and ASKA」と称するチャゲ&飛鳥(通称チャゲアス)のチャゲが作った渋いが心に沁みる唄。少年時代に、工場の裏の空き地で、親の見守る中で仲間とプレーした野球の思い出。「空に突き刺さるあの鉄塔に 狙いを定め 夢はいつでも どでかいホームラン」 「大人達は働いたんだ 鉄くずにまみれ働いたんだ 豊かな暮らしに憧れて 昼も夜も‥ 咳き込みながら俺も大人になったんだ」 高度成長時代、人には夢も大いにあった。福岡県生まれのチャゲアスにとってNとLの野球帽、即ち西鉄ライオンズは希望の象徴でもあった。

▽69年の出来事とは

唄は96年にシングルCD「river」の2番目の曲として出されたものだが、今ではこの曲の方が有名になった。単に昔を懐かしむだけでなく、西鉄の栄光と転落を嘆く意味があると言われているからだ。鍵は歌詞の「1969 光の中生きていた」「1969 愛するものが近くにあった」にある。69年は米国のアポロ11号が月面着陸した年でもあるが、西鉄にとっては「黒い霧事件」で野球賭博などの容疑で主力投手の池永正明、永易将之らが追放されてしまうきっかけになる暗黒の年でもあった。そして、72年限りで球団は消滅。「NとLのくたびれた野球帽 失くした物は景色だけさ」深い悲しみも含まれている。

▽ともに栄光の年に生まれる

チャゲ(本名 柴田秀之」、アスカ「同 宮崎重明)ともに58年早生まれ。日本シリーズで西鉄が巨人に3連敗から4連勝したあの年である。チャゲが西鉄ファンだったのは当然だろう。栄光を極めた球団が、転落を続けて、最後は不祥事で足をすくわれる。何故か英語で繰り返される「1969」には色々な意味が含まれている様に思われる。

▽池永はようやく復権

実際には敗退行為をしていないとしながら、永久追放された池永元投手はさまざまな運動の末に、ようやく解除された。高校野球選手権山口県大会で始球式を務めるまでになったが、処分がなかったら「300勝したはず」(プロ5年間で99勝)とも言われている。その一方で、チャゲアスは09年に無期限活動停止を発表した。そしてアスカは14年に薬物疑惑で逮捕された。愛する球団が泥に塗れた悲しい経験を持つチャゲが、相棒の薬物疑惑を許して、チャゲアスが復活するかどうか、ファンにとっては気になるところである。(了)